第1節 自然環境の保全
第1 自然環境の保全
1 地形と気象
兵庫県は、地形的にみると、標高1,000m内外の中国山地がやや北寄りに東西に走り、日本海側と瀬戸内海側との分水れいをなし、その東は加古川の谷によって丹波山地に相対している。南東部には六甲隆起帯があり、明石海峡を経て淡路島に続いている。
但馬海岸は、典型的な沈降型海岸地形で、いわゆるリアス式海岸となっている。これにひきかえ、大阪湾から姫路に至る海岸は、六甲隆起帯にあるため、隆起型の直線的で単調な海岸を示している。揖保川以西と淡路島南西部は沈降型の海岸地形である。
平野は、瀬戸内海に流れる諸河川の三角州と六甲隆起運動との複合効果により、大阪湾及び播磨灘に面したところに海岸平野として発達している。これに対して、日本海側は、沈降型の地殻運動の性格を強く反映して広い海岸平野の発達はなく、各河川沿いに細長い谷底平野が見られるだけである。
気候も、中国山地及び丹波山地を境にして、その北と南で大きく異なっており、冬の日照時間と降水量に顕著に差が現れる。すなわち、日本海側は降雪日が多いのに反して、瀬戸内側は晴天続きで異常乾燥の状態を呈する。
年平均気温は、淡路島南部で15℃~16℃、瀬戸内海沿岸で14.5℃~15℃、中央山地で13℃~14℃、日本海側で14.3℃~15℃となっており、南北差は小さい。特に、日本海沿岸で比較的温暖な気候となっているのは、対馬暖流の影響によるものである。
降水量は、播磨灘沿岸が最も少なく1,200㎜程度、これにより北に行くにつれて増加し、中央山地で1,500~1,600㎜、日本海沿岸では播磨灘沿岸の約2倍となっている。淡路島では南へ行くほど多くなり、淡路島南部は1,400㎜程度である。
2 植生
自然環境の状況を把握する一つの方法として「植生自然度」がある。これは、人為の加わっていない自然草原や原生林から市街地や造成地などの植生のほとんど残存しない地区までを改変の程度の少ない順に10から1までランクづけしたものであり、土地の自然性がどの程度残されているかを示す指標となる。
兵庫県の植生自然度の分布をみると、植生自然度7の一般に二次林とよばれているコナラ林やアカマツ林が最も広い面積を占めており、植生自然度2の耕作地、緑の多い住宅地がこれに次いで広い面積となっている(資料編第6-1表参照)。
一方、数ある植物群落のうち、原生林や湿原など学術上重要なものや保護の必要なものとして、「兵庫県版レッドデータブック-2003-」において県内で409カ所が選定されている。
このうち、常緑広葉樹林は159群落あり、そのうちの大半は神社、寺院、仏閣の周りに残っている樹林となっている。このことから、県下の自然林の保全に、いわゆる「社寺林」が極めて大きな役割を果たしていることがわかる。
常緑広葉樹林としてあげられた群落の多くは、暖帯域の低山帯を主領域とするもので、中でもスダジイ、コジイで特徴づけられているシイ型森林が半数を占めている。これに次いで、暖帯上部を主領域とするウラジロガシ、シラカシ、ツクバネガシなどが優占するカシ型の森林が目につく。
乾燥気候下の県南部臨海地のがけ状地に見られ
るウバメガシ林は7群落選ばれているが、特異なケースとして海岸から約40㎞の内陸に生育している西脇市の西光寺山や砂浜に生育している洲本市の成ケ島があげられる。
一方、タブが優占するタブ型の森林は4群落選ばれているが、県南部に位置するものは御津町室津の賀茂神社のイスノキ・タブ林として、ただ1群落しか残存していない。そのほか、暖帯林としては、ヒメユズリハ林、イヌマキ林、シリブカガシ林、イチイガシ林が含まれている。
落葉広葉樹林と針葉樹林は併せて79群落あり、いわゆる中間温帯域の群落としては、モミ・ツガ型の森林、イヌブナ林が中央山地の南部に残存している。一方、アスナロ林、カシワ林が日本海側に残存していて、瀬戸内気候との相違をよく反映している。
温帯域の群落では、ブナ林と谷あいの緩傾斜地に成立するトチノキ林があげられている。
湿地植生は56群落あり、その一つは、西宮市の甲山周辺にみられるように低海抜地の泥炭たい積のない湿地にヌマガヤ、ミカヅキグサなど北方・.高地系の湿原草本、モウセンゴケ、ミミカキグサなどを含むものである。
他は、村岡町の大沼、関宮町の古生沼などにみられるようにミズゴケ類やヤマドリゼンマイを伴った高層湿原的性格をもった湿原群落である。
草地植生は14群落あり、砥峰高原や鉢伏高原のススキ草原など火入れや草刈りなどの人間活動によって維持されてきたものが多い。
河辺植生と池沼植生は併せて67群落あり、そのうちの半数近くは播磨東部のため池に生育している。
海浜植生は21群落あり、数少なくなった海岸砂丘の海浜植物群落とシバナなどの塩沼地植物群落がある。
このほかに、ツメレンゲ、マツバランなどの岩上植物群落やシャクナゲ個体群などがある。
(注)群落の数は群落複合を含む数で、複数の異なるタイプの群落を含む群落複合は重複して計上している。
3 自然環境保全地域等の指定
県下の貴重な自然環境や身近で大切な自然環境を保全し、次世代に引き継ぐため、「環境の保全と創造に関する条例」に基づき、自然環境保全地域、環境緑地保全地域、自然海浜保全地区及び郷土記念物を指定し、指定地域等の中で行う一定の行為については、許可又は届出を要することとして保全を図っている。現在の県下の指定状況は、第3-2-1表のとおりである。
第3-2-1表 自然環境保全地域等の指定状況
(平成15年3月末現在)
4 貴重な野生生物等の保全
(1)改訂・兵庫の貴重な自然(兵庫県版レッドデータブック2003)
貴重な野生生物、地形・地質など優れた自然を積極的に保全していくため、兵庫県として保全の対象とすべきものを明確にし、その分布状況を把握することを目的として、平成7年3月に「兵庫の貴重な自然(兵庫県版レッドデータブック)」を作成したが、その後、新たな情報の蓄積や前回作成時にあまり得られなかった生物情報の収集が進んできたため、平成10年度より改訂作業に着手し、その結果を平成15年3月に「改訂・兵庫の貴重な自然(兵庫県版レッドデータブック2003)」として取りまとめた。
県下の動物、植物、植物群落、地形・地質・自然景観を対象に選定し、貴重性の高いものからA、B、Cのランク付けを行い評価をした。調査結果の概要とランク区分は第3-2-2表のとおりである。今回の改訂の特徴は、選定・評価の対象として新たに動物ではクモ類、ウニ類、ナマコ類、甲殻類、星口類、ユムシ類、ゴカイ類、花虫類を、植物では蘚苔類を加えたことと、植物群落において、前回あまり情報が得られていなかった湿地や海浜、草原などを選定したことである。
第3-2-2表 調査結果の概要とランク区分
(2)貴重な自然生態系保全・再生活動への支援
「環境の保全と創造に関する条例」において、絶滅のおそれのある貴重な野生動植物種及び生態系を保全するために、保存を図るべき種と生息地・生育地の指定、指定地域内での捕獲・殺傷・採取・損傷の禁止、土地の改変行為等の制限を規定している。
また、「兵庫県立自然公園条例」においては、指定動植物の捕獲・採取等の規制や湿原など指定区域内への立ち入り規制、公園管理団体との風景地保護協定の締結による自然公園管理の水準向上等を規定している。
さらに、「自然再生推進法」が、平成15年1月1日に施行され、地域主導のボトムアップ型で進める自然再生事業について、その推進の枠組みが定められたところである。
このため、現在、「改訂・兵庫の貴重な自然(兵庫県版レッドデータブック2003)」を基に、貴重性が高く、緊急に保護対策が必要であると考えられる動植物の生息地・生育地の生態系を保全・再生するための調査及び関係機関等との調整を進めている。
イヌワシなど貴重な野生生物が生息する温泉町上山高原とその周辺地において、豊かな自然環境の保全や自然と共生した地域の暮らしを学び実践する「自然環境保全・利用のモデル拠点」づくりを県民の参画と協働により進める。17年度オープンに向け地域住民を主体とした運営体制の整備を図るとともに、ススキ草原やブナ林復元等の自然再生活動、自然観察プログラム、施設整備等を実施する。
・自然再生活動や自然観察等プログラム試行
・イヌワシ生息状況調査等モニタリング調査
・地域住民主体の運営組織整備
・高原部山小屋、遊歩道の整備、休憩所等の整備、ビジターセンター展示内容検討
6 野生鳥獣の保護管理
(1)鳥獣
県下の野生鳥獣は、変化に富む自然環境条件により、生息する種類は豊富で鳥類330種、獣類29種が記録されている。
鳥類は、氷ノ山、扇ノ山(各県設鳥獣保護区)など標高700m以上の山岳地帯に、イヌワシ、クマタカなどの大型ワシタカ類、キバシリ、ゴジュウカラ、コマドリ、コルリなど森林性の小鳥類が生息、繁殖している。
また、冬期には加古川市平荘湖、伊丹市昆陽池、姫路市市川河川敷(各県設鳥獣保護区)などにカモ類が多数渡来し、春秋期には西宮市浜甲子園干潟(国設鳥獣保護区)などにシギ・チドリ類が渡来する。
しかし、各種の開発により鳥類の生息環境が縮小され特に、瀬戸内沿岸のヨシ原の壊滅によるオオヨシキリ、ヨシゴイ、バンなどへの影響が大きい。
一方、ヒヨドリ、ムクドリ、カラス類、キジバト、ドバトなど都市型鳥類が増加傾向にあり、農作物及び生活環境に被害を与えている。
獣類は、ニホンカモシカ、ヒグマ等一部の種類を除いて多くの種類が生息し、特徴的なものはイノシシ、シカ、サル、ツキノワグマなどである。イノシシは全県に広く生息している。シカは阪神地区、播磨東南部を除く広い地域に生息している。サルは多紀連山、大河内町、南光町、美方町、村岡町、竹野町、洲本市などに群れで生息している。
これらの獣類は、各種の開発などによる自然環境の変化に伴い里山又は耕地に出没し、農林作物に被害を与えている。ツキノワグマは中国山地の氷ノ山・鉢伏山系及び東床尾山系に少数生息し、しばしば里山地帯に出没する。
しかし、近年、各種開発などによる環境の変化に伴い、大型鳥類及び生息環境許容度の狭い鳥獣は著しく減少し、一部都市生息型のドバト、カラス類、チョウセンイタチ、里山に生息するシカ、イノシシなどを除いては、その生息数は、全体的に漸減の傾向にある。このため、第9次鳥獣保護事業計画(平成14.4.1~平成19.3.31)により、鳥獣の保護に努めることとしている。
ア 鳥獣保護区の指定
野生鳥獣の保護繁殖を図るため、鳥獣保護区を設定し、さらに、鳥獣保護区内で特に鳥獣の保護繁殖上重要な区域については、特別保護地区を指定している。
イ 休猟区の指定
狩猟鳥獣の増加を図るために、3年以内の期間を定めて設定している。平成14年度は1力所1,950haを設定した。
ウ 銃猟禁止区域の指定
銃猟により、人畜などに危害を及ぼすおそれのある区域を危険防止のため設定している。平成14年度は2カ所715haを新規設定し、2力所349haを拡大した。
平成15年4月1日現在の鳥獣保護区等の設定状況は第3-2-3表のとおりである。
第3-2-3表 鳥獣保護区等の指定状況
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区 分 | 個所数 | 面積(ha) |
---|---|---|
鳥獣保護区 (内特別保護地区) |
97 (11) |
43,750 (1,397) |
休猟区 | 4 | 6,854 |
銃猟禁止区域 | 133 | 190,545 |
エ 鳥獣保護員の配置
鳥獣保護思想の普及啓発、鳥獣保護区等の管理、狩猟の取り締まり等を行うため鳥獣保護員を各県民局に配置している。
・鳥獣保護員 48名
オ 狩猟の適正化
狩猟免許や狩猟者登録等を通じて狩猟の永続性を図るとともに、狩猟取り締まりや安全指導による事故の未然防止を図っている。また、農林作物等に被害を与える有害鳥獣については必要に応じて捕獲許可を行い駆除を図っている。
・平成14年度 狩猟者登録証交付5,847件
有害鳥獣駆除捕獲許可6,858件
カ その他の動物
わが国の中央部に位置し、気侯や地形も変化に富んでいる兵庫県は南方系の動物と北方系の動物の分布の接点ともなっており、多様な動物の生息が見られるとともに、多くの動物の分布の限界ともなっている。
本県を特徴づける動物としては、両生類では世界最大の両生類で「生きた化石」といわれるオオサンショウウオが内陸部の河川に生息しており、国の特別天然記念物に指定され保護されている。また、小型サンショウウオ類のアベサンショウウオは但馬地域に生息しているが、全国で兵庫県、京都府、福井県にのみ生息が知られている。
は虫類では、全国で瀬戸内海沿岸地域の一部に分布が限られているタワヤモリが家島群島及び淡路島の一部に生息している。
淡水魚類では、兵庫県が分布の東限になっているオヤニラミが河川の中流から上流に生息している。
昆虫類としては、全国でも極めて限られた場所でしか生息が確認されておらず、最も絶滅のおそれが強い昆虫の一つと考えられているベッコウトンボが県内のため池で確認されている。また、河川の汽水域のアシ原に生息するヒヌマイトトンボは県内では円山川流域で平成4年6月に初めて生息が確認されている。さらに、湧水湿地に生息するヒメタイコウチは全国で兵庫県南部と伊勢湾周辺のみに分布する昆虫である。