第3節 21世紀の兵庫がめざす環境の姿
以上のような認識を踏まえ、環境政策を総合的に推進するために、「環境の保全と創造に関する条例」(平成7年条例第28号)を制定し、平成8年6月には「環境優先社会」の具体化を図る基本計画として、「兵庫県環境基本計画」を策定した。平成14年5月には、環境を巡る近年の動向を踏まえて「兵庫県環境基本計画」を全面的に見なおし、「新兵庫県環境基本計画~共生と循環の環境優先社会をめざして~」を制定して、兵庫がめざす共生と循環の環境適合型社会を明らかにしたところである。
第1 目標
私たちは、“共生と循環の環境適合型社会”の実現をめざす。人と自然、人と社会、人と人との共生のきずなを強め、共生と循環の中で、地球的視野のもとに、人と環境が適正な調和を保つことにより、将来の世代や他の生物の生存を保障しつつ、持続的に発展することが可能な社会をめざす。
そして、その際には、各主体が共に知恵と力を出し合い、支え合いながら、自らの権限と責任のもとに主体的に「参画」していくことが必要であり、その上で、各主体が対等なパートナーシップのもとに適切な役割分担をしながら、将来に向かって、共に汗を流しながら「協働」していくことが、何よりも重要です。
第2 兵庫がめざす共生と循環の環境適合型社会
1 環境の姿
(1)心地よい陽の光・大気・水・土に包まれた健やかな環境
存分に浴びることができる陽の光、どこでも胸いっぱい吸えるさわやかな大気、飲み水にすることもできる清らかな水、安心して食べられる農作物を育む豊潤な土壌、静かで心地よい音環境など、豊かな自然の恵みを享受できる健やかな環境を保全・創造し、健康で快適な環境に満ちた美しい地域環境の実現をめざす。
(2)多様な生き物が共生する豊かな自然環境
近年、動植物や土壌など自然を構成するものが、複雑な相互関係で互いに支え合って「生態系」として存在していることへの理解が広がっている。私たち人間もその一員であることを認識し、生物多様性を踏まえた自然生態系を大切にし、共生していくことが求められている。
こうした中で、兵庫県の風土に根ざした多くの動植物と共に生きる豊かな自然環境の保全と回復をめざしている。
(3)個性的な文化や景観に包まれた居住環境
県下各地域において、これまでに形成・蓄積されてきた地域特性を生かすとともに、環境圏にも着目しながら、社会的ストック(蓄積)や歴史・文化・伝統などの地域性、花や緑、水辺などの四季ごとに変化する風土の豊かさが活かされた個性的な文化や景観に包まれた居住環境の創造をめざす。
2 社会の姿
(1)地域間のみならず世代間の公平が確保されている社会
各地域間・各主体間において、豊かな環境の恵みを公平に享受し、併せて適切な役割を分担するとともに、現世代で解決できないような著しい環境の破壊や負荷の排出を行わず、また、問題を将来世代に先送りしない社会をめざす。
(2)環境の保全と創造のしくみが盛り込まれた経済社会
環境への負荷を削減するとともに、環境に配慮した製品やサービスを提供するなど、自らの産業活動の中に環境の保全と創造のしくみを盛り込んだ事業者が活躍する産業経済が定着し、また、事業活動に伴って必要となる環境コストが経済活動の中に内在化された社会をめざす。
(3)環境に負荷を与えない知恵や手立てを定着・発展・伝承する社会
家庭・学校・職場における日常的な実践や学習・教育などを通じて、環境を保全し創造する新しいライフスタイルやビジネススタイルを支える知恵や手立てを発展させ、誇りを持って後世の子や孫たちに伝えられる社会をめざす。
3 人々の姿
(1)共生と循環を基調とした暮らしを営む人々
人々が、不必要な消費をやめ、資源を大切に使い、環境への負荷を最小限に抑え、社会のあらゆる分野にわたって健全な循環の営みを構築し、環境に配慮した暮らしを営んでいる姿をめざす。
(2)より良い環境づくりに責任を持って取り組んでいる人々
すべての主体が共通の目標を持ち、自らの責任のもと、参画し協働して、より良い環境づくりに率先して取り組んでいる姿をめざす。
(3)健康で文化的な生活を営んでいる人々
豊かな環境の恵みの中で生きがいを持ち、健康で文化的な生活を営んでいる姿をめざす。
第3 目標達成への基本戦略
「共生と循環の環境適合型社会」を実現していくためには、兵庫県の環境の保全と創造に関する現状と課題を踏まえ、様々な問題の解決に向けて、すべての環境分野にわたって、あらゆる主体(県民、事業者、行政等)が、人的・物的・社会的資源の有限性にも留意しながら、多種多様なとりくみ・施策を、総合的に、そして計画的に推進していくことが重要である。
このため、様々なとりくみ・施策の基盤となる事項を重点的に推進することとし、その考え方を「目標達成への基本戦略」と位置づけ、「基本戦略」に沿って、各種とりくみ・施策をパッケージして体系的に展開することにより、より効果的、効率的に、環境政策を推進していく。
1 「ひょうごエコ・ライフスタイル」の創造
(県民、事業者、行政が一体となって、5R生活など環境にやさしい「ひょうごエコ・ライフスタイル」づくりに取り組む)
生活水準の向上、生活の利便性の追求に伴い定着した大量消費・大量廃棄型のライフスタイルや社会経済システムは、環境へ過大な負荷をかけるものとなっている。これまでの産業活動や人々のくらし方によって引き起こされた環境問題が深刻さを増し、いまや人類の生存さえも揺るがす重大な課題となっている。
そのため、現状の枠組みの中での努力にとどまらず、生活行動や経済活動を環境の保全と創造が組み込まれた新たなものに変革することが求められており、生活行動においては、環境への負荷が少ない新たなスタイルについての社会的共通認識を確立し、それを実践することが求められている。
そして、この解決に向け、県民、事業者、行政などすべての主体が、様々な機会を捉え知識や経験を拡げ、より広く深く考えながら、環境の保全と創造に係るとりくみを楽しみながら実践していくことが必要となっている。
このため、各主体が環境学習・教育を通して、環境に対する意識を高め、環境にやさしいライフスタイルを提案し、県民の共通認識として、新しい豊かさを持った、健康で文化的な環境に配慮した「ひょうごエコ・ライフスタイル」を創造していく。
また、意識の変化を実践に結びつけ、県民等各主体の自発的、積極的なとりくみをより一層活発化していく。

こども環境会議
2 環境へのとりくみが盛り込まれた社会経済システムの構築
(「環境に良いことをしても損をしない」さらに「環境に良いことをしたら儲かる」産業活動システムをつくる)
今日の環境問題は、私たちの生活様式や事業活動と深く結びついていることから、社会経済システム自体を変革しなければ、その根本的解決は不可能である。
このような認識から、持続可能な社会の形成に向けて、生活者であると同時に生産者でもある私たちが、生活行動とともに経済活動を「環境の保全と創造」が盛り込まれた新たなものに変革することが求められている。
そのためには、経済活動において、「環境の保全と創造」と「健全な経済活動」が併せて実現できるしくみを構築するとともに、環境への負荷の低減や環境の保全と創造に貢献する産業を育成していくことが必要である。
このため、技術の向上や経済効率性の向上を通じて環境負荷を低減する「環境効率性」の考え方を定着させ、その流れを促進する経済的手法の導入やしくみづくり、新たなビジネスモデルの育成などを図る。
また、事業者のみならず県民、民間団体、行政等が、的確な知識を持って、生産者、消費者など様々な立場で「グリーン購入」などの経済活動に参加することを促進する。
こうしたとりくみを通じて、経済活動への「環境の保全と創造」の考え方の盛り込みを進め、産業活動スタイルの大幅な転換を進める。
3 担い手の育成とパートナーシップの形成
(県民、事業者、行政が、環境問題について認識を深め、共有し、環境づくりの「担い手」として役割を果たすとともに、環境コミュニケーションを構築し、各主体間のパートナーシップを育成していく)
環境問題の多くが、県民個々の生活や事業活動に直接起因し、影響を与えるものであることから、その解決に向けては、それぞれの地域の住民や事業者が、自ら考え、自ら行動していくことが強く求められている。
また、環境問題が多様化・複雑化し、多岐の分野にわたる環境の保全と創造が必要となっている今日、様々な分野やレベルで、環境に関する多様な知恵を備えた数多くの人材や組織が必要であり、より多くの活動主体(担い手)が必要となっている。
さらに、今日の環境問題を解決し、「共生と循環の環境適合型社会」を実現するため、県民と行政、事業者と行政、県民と事業者など様々なパートナーシップによりとりくみを推進していくことが重要となっている。そして、県民、事業者、行政などすべての主体が、その役割と状況を互いに理解することが必要である。
そのため、生活や事業活動による環境への負荷の程度、将来の環境変化の予測、先進的な環境保全・創造のとりくみ等の様々な情報を体系的に整理し、積極的な情報提供に努める。また、情報公開や環境コミュニケーションを進め、環境に関する事業やとりくみの透明性を高める。このことにより、県民、民間団体、事業者、行政等の各主体が環境問題を正しく認識し、相互理解を深め、自らが環境の保全と創造の「担い手」として、多様な環境保全・創造活動を展開していけるよう支援する。
また、これらの様々な活動の担い手が、実効ある活動を持続的に繰り広げるため、環境ファンド(基金)などの経済基盤の充実を図る。
さらに、「環境にやさしい買い物運動」など、県民主体で進められてきたこれまでのとりくみを踏まえながら、(財)ひょうご環境創造協会との連携・協力のもと、参画と協働の新たなしくみづくりを進めていくとともに、環境保全協定の締結等を通じて、企業とともに、地域における環境負荷低減に取り組む。

おもちゃ診療所(宝塚市にて)
4 地域間、世代間の公平性の確保
(地域間、世代間において、優れた環境の恵みを公平に享受できるしくみをつくる)
県内はもとより国内外のどの地域に住む人々も、また将来に生きる人々も、等しく快適な環境のもとで暮らすことができるように努めなければならない。
20世紀は、海辺が著しく埋め立てられ、森林では原生的な自然植生が減少するなど、人の手により環境が大きく改変された100年だった。また、利便性の追求から生み出された様々な化学物質が、河川・海域、土壌、地下水や大気の中に蓄積された。
現在生きている私たちには、物質的豊かさの追求の結果生じた環境の汚染や自然環境の破壊などの20世紀の負の遺産を、将来世代へ残さないよう、その解消に早急に取り組み、そして、将来に向けて負の遺産を新たに発生させないことが強く求められている。また、優れた自然やまちなみなどの環境資産を継承していくことが求められている。併せて、環境が悪化している地域について、積極的に保全創造のとりくみ・施策を展開する必要がある。
このため、森林の荒廃や河川の汚濁、自然海岸の減少、また有害物質による土壌や地下水の汚染、難分解性有害物質の処理問題など、環境上の「負の遺産」の解消に努めるとともに、有害化学物質による汚染の未然防止など新たな分野をも含めて様々な実態に留意し、新たな発生を防止していく。
また、森林や農地、藻場、干潟、そして文化財や歴史的まちなみといった優れた環境資産を保全しつつ、次の世代に継承していくとともに、国際協力・支援の一層の推進を図る。