第1節 環境を巡る概況
第1 時代の潮流
本格的な成熟社会を迎えた今日、人々の価値観が量的拡大より質的充実を求める方向へと変化するとともに、中央集権・一極集中による画一性と効率性を優先する社会システムから、地方分権・多極分散による多様性と個性を優先する生活者の視点に立った新しい社会システムヘの転換が求められている。兵庫県においても、「県民の参画と協働の推進に関する条例」(平成14年条例第57号)を制定するなど公共的領域における行政と県民との協働のしくみづくりをすすめており、県民をはじめとする各主体の責任に裏打ちされた自主性、自立性が重んじられる社会へ移行しつつある。国の権限が地方自治体に委譲される中、地方自治体が地域の経営に果たす責任と役割が増大するとともに阪神・淡路大震災での経験を契機に芽生えた、これまでの行政施策が及ばなかった部分を県民自らが行おうとする団体や組織が、今日では、地域づくりに大きな役割を果たしているところである。
一方で、出生数の減少と並行して高齢化が進んでおり、我が国は本格的な少子高齢社会へ移行する。少子高齢化の結果、日本はまもなく人口減少へと向かい、本県においても2010年頃をピークに減少局面へ移行し、この傾向は長期に続くと推計されている。
また、パーソナルコンピューターやインターネットの普及などにより、情報通信に関する技術革新が、驚くべきスピードで進んでいるが、この動きは単に生活の利便性を高めたり、経済発展の推進力になるだけではなく、生活やビジネスのあり方、さらには社会の制度やしくみにまで影響を与えている。
さらに、20世紀後半にはじまったグローバル化の動きは、経済や人の往来はもとより、情報伝達や文化活動など日常生活の様々な面に及んでいる。グローバル化の進展による国際的な大競争時代の中で、地球規模の市場拡大や制度や技術をめぐる世界標準の確立、規制緩和の進展などの急激な社会の変化が起こっているところである。
第2 環境に関する国内外情勢
このような時代の変化の中、国内においては、かつて、高度成長期においての公害問題の中心的課題であった工業地帯での産業公害問題が改善へ向かう中で、最近では都市全体からの生活排水や自動車の排出ガスなど、地域に広く分散する汚染源による環境負荷が都市・生活型公害として浮上している。
また、二酸化炭素(炭酸ガス)等温室効果ガス濃度の上昇による地球の温暖化、フロンなどによるオゾン層の破壊や酸性雨など、地球規模での環境問題が深刻な様相を帯び、世界各国において環境問題へのとりくみが進められている。1997年に世界84カ国に署名された「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」の批准が各国で進んでおり、今後、より一層の温室効果ガスの排出抑制が求められている。
このような情勢の中、人々の意識には、物の豊かさよりも心の豊かさを重視する傾向が強まり、大量生産・大量消費・大量廃棄を生み出す社会のあり方への疑問が広がるとともに、地球温暖化防止をはじめとする環境保全のためには、社会経済システムと一人ひとりのライフスタイルの変革が必要であるという考え方が強まっているところである。
さらには、環境に影響を及ぼすおそれのある多数の化学物質が、恒常的に環境中に排出されていることによる人の健康や生態系への影響、ダイオキシンなど微量ではあるが長期的な暴露によって人の健康が脅かされるなどの環境リスクの高まりについて懸念が生じている。そのような懸念を背景として、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法平成11年法律第86号)などに示されるように、人々が環境情報を知ることができるということが重視され始めた。
また、人間の活動に伴う環境変化の影響で地球上の生物の多様さとその生息環境の多様さ(生物多様性)が損なわれ、多くの生物種や生態系が存在の危機に直面している。これまで種の絶滅は自然の過程の中で絶えず起こってきたことだが、現在の動きは地球の歴史始まって以来のスピードであり、またその原因が人間の活動に起因するものとなっている。近年、「多様な生物が生息できる環境こそが実は人間にとっても安全な環境である」という理解が進んでいる。そして「生物の多様性に関する条約」が1993年に発効するなど野生生物種や生態系を保全するための国際的なとりくみが展開されており、国内的にも「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年法律第75号)や「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(平成16年法律第78号)が制定されるなどとりくみが進んでいるところである。
一方で、経済面においても、環境負荷を低減させながら経済性を向上させる「環境効率」という考え方が世界的に重視され始めた。また、事業者の責任についても「特定家庭用機器再商品化法」(平成10年法律第97号)・「使用済自動車の再資源化等に関する法律」(平成14年法律第87号)の制定に見られるように、「拡大生産者責任」といった新たな考え方が示されているところである。このように、事業者の責任が問われるとともに、産業廃棄物等の不適正な処理についても問題として認識され、兵庫県においても、「産業廃棄物等の不適正な処理の防止に関する条例」(平成15年条例第23号)を制定する等、とりくみを進めつつあるところである。
また、さらに進んで、環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境の改善を呼ぶとして、環境と経済が一体となって向上する社会が21世紀のあるべき姿とする考え方も主張されている。
このように、持続可能な社会の形成に向けて、個人、民間団体、企業、行政のとりくみが広い範囲で活発化し、とりわけ、環境と社会と経済の面で、企業の社会的責任がより強く認識されてきているところである。