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第3部 第4章 第3節 環境汚染物質対策の推進

 

第3節 環境汚染物質対策の推進

第1 環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)制度の推進

 

<コラム>「リスクコミュニケーション」

1 PRTR制度

 PRTR制度とは、Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出移動登録)の頭文字を取ったもので、有害な化学物質が、どのような発生源から、どれだけ排出されているかを事業者が把握し、都道府県を経由して国に届出を行う。
 国はこれらのデータを集計し、家庭や農地、自動車等からの排出量の推計データとともに公表することにより、事業者の化学物質の自主管理を促進することを目的とした制度である。
 我が国においては、平成11年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」が制定され、平成14年4月から毎年度、前年度の排出量等の実績が事業者から届出されている。

 

2 平成16年度届出データ集計結果の概要

 平成16年度に兵庫県内の事業者から届出のあったデータ(平成15年度実績データ)の集計結果は以下に示すとおりである。

 

(1)届出事業所数

 届出事業所数は神戸市を含めて1,861事業所であり、平成15年度と比較して319事業所増加した。

 

(2)届出排出量と届出移動量

 排出量と移動量の合計は29,494t/年であり、これらのうち廃棄物に含まれての事業所の外への移動量が最も多く、排出・移動量全体の62.6%を占めている。
 次いで、大気への排出(32.8%)、事業所内での埋立処分(2.5%)、公共用水域への排出(1.7%)の順となっている(第3-4-57図)。

 

(3)物質別届出排出量

 届出排出量は、10,924t/年で、前年度と比較して517t減少した。
 物質別に見ると、第3-4-54図のとおり有機溶剤・合成原料として広く使用されているトルエンが最も多く、全体の39.5%、次いでキシレン(16.1%)、金属洗浄剤として使用されている塩化メチレン(10.8%)の順となっている。

 

第3-4-54図 物質別届出排出量

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(4)地域別届出排出量

 届出排出量を地域別に見ると、第3-4-55図に示すとおり東播磨地域が3,229t/年で最も多く、次いで中播磨地域(2,014t/年)、神戸地域(1,670t/年)となっている。

 

第3-4-55図 地域別届出排出量

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(5)排出先別届出排出量

 排出先別に見ると、大気への排出が9,679t/年と最も多く、次いで事業所内での埋立て(742t/年)、公共用水域への排出(503t/年)の順となっている(第3-4-34表)。

 

第3-4-34表 排出先別届出排出量

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排 出 先排出量(トン/年)割合(%)
大  気 9,679 88.6
公共用水域 503 4.6
土  壌 0 0.0
事業所内埋立て 742 6.8
10,924 100.0

 

(6)業種別届出排出量

 届出排出量を業種別に見ると、最も多いのが化学工業で全体の17.9%、次いでゴム製品製造業(10.7%)、一般機械器具製造業(10.7%)となっている(第3-4-56図)。

 

第3-4-56図 業種別届出排出量

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3 取組状況

 県では、平成15年度に設置した「化学物質対策検討委員会」の指導・助言に基づき、PRTR集計結果を踏まえ、ダイオキシン類対策や環境ホルモン対策を含めた総合的な化学物質対策を推進している。
 その主な内容は以下のとおりである。

 

 (1)PRTR制度への理解とリスクコミュニケーションの促進

  ・県民向け資料及びホームページ向けコンテンツの作成

  ・県民講座の開催

  ・県民意識アンケート調査の実施

 (2)事業者に対するリスク低減指導

  ・事業者説明会の開催

  ・代替物質への転換事業者等に対するアンケートの実施

 (3)PRTRデータ活用によるリスクの低減

  ・環境モニタリングの実施

  ・集計・公表システムの整備・改良

 (4)事業者による届出の促進

  ・PRTR届出説明会の開催

 

第 3-4-57図  兵庫県の排出・移動量の状況(平成15年度実績)

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第3-4-58図 PRTRの基本構造

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コラム

「リスクコミュニケーション」

 

 化学物質による環境汚染を減らすには、企業や行政に対して県民が不安に感じたことを問い合わせる等、県民・事業者・行政の間でコミュニケーションを図り、地域全体での取組を進めていくことが重要です。

 化学物質に関する情報を、県民・事業者・行政が共有し、お互いの意志疎通を図ることを「リスクコミュニケーション」と呼んでいます。

 言いかえると、リスクコミュニケーションとは、PRTRデータなどの情報を通じて、県民・事業者・行政が情報の共有と相互理解を進めるものであり、化学物質による環境汚染を減らす取組を進めるための基盤となるものです。

 いきなりリスクコミュニケーションをしようとしても、なかなかできるものではありませんが、まず、身近な地域のことを知る手がかりの一つとして、地元の企業がどんな資材や物質を使って何を製
造しているのかをPRTRデータパンフレットやインターネット、市勢要覧などで調べてみましょう。

 その中でわからないことがあれば、企業や行政、市民団体等に聞いてみてください。

 さらに、企業や行政が開催する説明会、県民講座に参加したり、企業の担当者に勉強会に来てもらい、もう少し詳しいことを聞くということも考えられます。

 こうした過程を通して、双方向の交流、つまり「相手の顔が見える」ような関係が生まれます。

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第2 ダイオキシン類削減対策

 

<コラム>ダイオキシン類とは

 

1 発生源対策

 

 ダイオキシン類は、非意図的に生成する化学物質であり、その発生源は有機塩素系化合物の生産過程や廃棄物の焼却過程など多岐にわたっている。また、毒性が強く、その環境汚染が大きな社会問題となっている。
 このため、県では、平成9年5月30日に設置した「ダイオキシン類対策検討委員会」の指導・助言のもと、平成9年12月に「兵庫県ダイオキシン類削減プログラム」を策定し、総合的、計画的なダイオキシン類対策を講じている。
 また、平成11年7月に「ダイオキシン類対策特別措置法」が制定され、平成12年1月に施行された。この中でダイオキシン類に係る大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・廃棄物処理にかかわる基準、規制及び措置等が定められた。
 これに基づき、特定施設に係る届出の受理、立入検査により排出基準適合状況等の審査及び指導を行うとともに、工場の調査やダイオキシン類による環境の汚染状況の常時監視を行っている。

 

(1)ダイオキシン類対策特別措置法に基づく対策

 ダイオキシン類対策特別措置法の適用を受けている工場等について、特定施設に関する届出の審査及び燃え殻・ばいじんの処理方法の確認を行っている。

 平成16年度は延べ370事業所に対して立入検査を行っている(第3-4-35表)。

 

第3-4-35表 立入検査の状況(平成16年度)

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立入検査件数行  政  措  置
改善命令改善勧告改善指示
370 0 0 1

 

 なお、平成17年3月31日現在、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく特定施設を設置する事業所数は、大気基準適用施設を設置するものが376(そのうち、同法で権限が委任されている神戸市、姫路市内のものは75)、水質基準対象施設を設置するものが113(そのうち、神戸市、姫路市内のものは27)である。
 また、同法に基づき排出ガス、排出水、燃え殻・ばいじんの自主測定及び報告義務が事業者に課せられている。
 平成16年度の自主測定状況は、第3-4-36表のとおりである。

 

第3-4-36表 自主測定結果報告状況及び排出基準の適合状況

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(2) ごみ焼却施設における発生源対策

 排ガス中のダイオキシン類濃度の規制が強化された平成14年12月1日までに既存焼却炉の改修(51施設)や更新を進めた結果、平成15年12月1日から平成16年11月30日までの1年間にごみ処理施設から排出されたダイオキシン類の総量は、2.5g-TEQで、測定開始の平成8年度113.6g-TEQと比べて98%削減されている。

 

(3)ばく露防止対策(ダイオキシン類による労働者への健康影響等の防止)

 廃棄物焼却施設からのダイオキシン類による労働者への健康影響等を防止するため厚生労働省から「廃棄物焼却施設内作業におけるダイオキシン類ばく露防止対策要綱」(平成13年4月)が示されており、県では、市町及び関係事業者等への周知・徹底を行っている。
  また、解体時のばく露防止対策により、解体撤去費が高額となっており、国において解体に係る市町への補助制度が創設されたことから、早期に解体撤去するよう市町を指導している。

 

(4)産業廃棄物焼却施設対策

 焼却からリサイクル型への転換促進、発生源に対する規制、事業者による自主的取組の促進方策等によりダイオキシン類の発生抑制を図るよう、適切な指導、立入検査等を実施している。
現在、県内で稼動中の産業廃棄物焼却施設は68施設である。そのうち、平成16年度に排ガスに係るダイオキシン類濃度の排出基準を超えた1施設については、施設の停止を命じ、改善計画について指導している。

 

2 環境調査

 

 平成16年度も全県的にダイオキシン類の環境濃度を継続して監視するため、大気、水質、底質、地下水、土壌で調査を行った。

 

(1)大気(資料編第8-18-2表

 20地点(年4回)で調査した結果、地点別年平均値の濃度範囲は0.018~0.071(全平均値0.042)pg-TEQ/m3で、ダイオキシン類に係る大気環境基準(年平均0.6pg-TEQ/m3)をすべての地点で達成している。

 20地点で調査を開始した平成12年度からの全平均値の推移は減少傾向にある。

 

第3-4-59図 県下18地点の年平均値の推移

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(2)水質(資料編第8-38-4表

 河川では26地点で調査した結果、濃度範囲は 0.065~0.55pg-TEQ/L、湖沼では3地点で調査した結果、濃度範囲は0.094~0.15pg-TEQ/L、海域では13地点で調査した結果、濃度範囲は0.065~0.17pg-TEQ/Lであり、すべての地点で、ダイオキシン類に係る水質環境基準(年平均1pg-TEQ/L)を達成している。

 

(3)底質

 河川では26地点で調査した結果、濃度範囲は 0.39~91pg-TEQ/g、湖沼では3地点で調査した結果、濃度範囲は7~14pg-TEQ/g、海域では13地点で調査した結果、濃度範囲は0.88~27pg-TEQ/gであり、すべての地点で、ダイオキシン類に係る底質環境基準(150pg-TEQ/g)を達成している。

 

(4)地下水

 6地点で調査した結果、濃度範囲は0.04~0.082pg-TEQ/Lで、すべての地点で、ダイオキシン類に係る水質環境基準(年平均1pg-TEQ/L)を達成している。

 

(5)土壌

 20地点で調査した結果、濃度範囲は0.0016~6.9pg-TEQ/gで、すべての地点で、ダイオキシン類に係る土壌環境基準(1,000pg-TEQ/g)を達成している。

 

第3-4-37表 調査地点(大気)

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第3-4-38表 調査地点図(水質・河川)

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第3-4-39表 調査地点図(水質・地下水、土壌)

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第3-4-60図 ダイオキシン類調査地点図(大気)

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第3-4-61図 ダイオキシン類調査地点図(水質・底質)

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第3-4-62図 ダイオキシン類調査地点図(地下水・土壌)

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コラム

▼ダイオキシン類とは
 ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾ-フラン(PCDF)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)の総称で、主に炭素と塩素を含んだものを燃やすことにより発生します。
  その毒性は、モルモットによる急性毒性試験によると、人工化学物質の中では極めて高い急性毒性がみられますが、通常そのような濃度のダイオキシン類にさらされることはありません。むしろ、日常生活において食物等にごく微量存在するダイオキシン類を一生涯にわたってとり続けた場合、健康にどのような影響があるのかが問題で、その指標として耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake:TDI)4pg-TEQ/㎏/dayが定められています。

  ※TDI:一生涯摂取しても、何ら健康に影響を及ぼさない安全な摂取量(単位:TEQ/㎏/day)
 

第3 外因性内分泌攪(かく)乱化学物質対策

 

<コラム>環境ホルモンってなに?

 

 外因性内分泌攪(かく)乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)は、人や野生生物の内分泌作用を撹乱し、生物機能阻害、悪性腫瘍(しゅよう)等を引き起こす可能性があると指摘されている。内分泌攪(かく)乱化学作用は、科学的に未解明な点が多く、このため国は平成10年度から全国一斉調査を実施し、内分泌攪(かく)乱化学作用を有すると疑われる化学物質の存在状況を把握するとともに、これらの物質について有害性評価を行い、我々のおかれている環境がもたらすさまざまな経路を通じたリスクを総合的に評価し、それに基づいて有効な対策を策定しようとしている。
 県では、平成10年度から全庁的な協議・調整の機関として「外因性内分泌攪(かく)乱化学物質対策連絡調整会議」及び技術的、専門的な助言・解析を得、今後の環境ホルモンに係る環境保全対策に関する検討を行う機関として、「外因性内分泌攪(かく)乱化学物質対策検討委員会」(平成15年度から「化学物質対策検討委員会」に改組)を発足させるとともに、県下全域にわたって詳細な環境調査を実施し、実態把握に努めるとともに、今後の対策を検討している。

 

1 大気(資料編第9-1表

 

 平成16年度は、6地点において、PCB、ヘキサクロロベンゼンの2物質について調査を実施し、両物質とも全地点において検出された。
環境省調査結果と比べると、両物質とも低い値となっている。

 

第3-4-40表 環境ホルモン調査結果(大気)

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2 水質及び底質(資料編第9-2表

 

 16河川の16地点で水質・底質調査を行った。調査対象物質は、PCB、ノニルフェノール、4-t-オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ-n-ブチル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシルの8物質。

 

(1)水質

 ノニルフェノール等6物質については、全地点において定量限界未満(ND)であり、PCB、ビスフェノールAの2物質については環境省調査結果の範囲内である。

 

(2)底質

 ノニルフェノール等3物質については、全地点において定量限界未満(ND)であり、PCB等5物質については環境省調査結果の範囲内である。

 

第3-4-41表 環境ホルモン調査結果(水質・底質)

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コラム

▼環境ホルモンってなに?

 

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◆ 定義
 「環境ホルモン」の正式名称は『外因性内分泌攪(かく)乱化学物質』といいます。国では、"動物の生体内に取り込まれた場合に、本来その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質"と定義しています。

◆ ホルモンの役割
 私たちの体内では微量のホルモンが必要に応じて分泌され、成長や生殖機能の発達を促したり、外部環境が変化しても身体の機能を一定に保つ恒常性(ホメオスタシス)を調節する役割を果たしています。

◆ 環境ホルモンはなぜ悪い
 本来、ホルモンは細胞中のレセプター(受容体)と呼ばれるカギ穴のようなものに結合することで作用します。普通はホルモン以外の化学物質はレセプターと結合しません。ところが、「環境ホルモン」は本物のホルモンの代わりにレセプターと結合してしまい、その結果、本物もホルモンと類似の作用をする場合や、逆に作用を阻害する場合があるといわれます。

◆ どんな物質があるの?
 国では、内分泌攪(かく)乱作用をもつと疑われている物質が約70あるとしています。内容としては、ダイオキシン類などの非意図的生成物、殺菌剤、除草剤、殺虫剤等の農薬、フタル酸等の工業薬品、カドミウム等の重金属となっています。

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出典:環境シンポジウムin北九州