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用語の解説

 
 

○ 環境リスク

 

 化学物質の「環境リスク」とは、化学物質が環境を経由して人の健康や生態系に悪い影響を及ぽすおそれ(可能性)をいいます。その大きさは、化学物質の有嘗性の程度と、呼吸、飲食、皮膚接触などの経路でどれだけ化学物質に接したか(暴露量)で決まり、概念的に式で表すと次のように示されます。

         化学物質の環境リスク=有害性×暴露量

 化学物質は、安全なものと有害なものに二分することはできません。例えば、有害性が小さくても大量に暴露したり、長期間にわたって暴露すれば悪影響があり、逆に有書性の高い物質であってもごく微量の暴露であれば、悪影響が及ぶ可能性は低くなります。「環境リスク」はゼロにすることはできませんが、技術的、費用的な面で限界があるものの、暴露量を小さくしたり、有害性の低い物質を使用したりすることで、悪影響が生じない程度にまで小さくすることはできます。

 

 

○ 有害性

 

 化学物質のもつ物性(融点や密度)とともに固有の性質の一つで、有嘗さの程度を示します。化学物質の有害性は、症状が現れるまでの時間によって急性毒性と慢性毒性に分けられ、また症状の種類として発がん性や生殖毒性などがあります。多くの有害性は、動物実験で得られた結果を人に当てはめるため、不確実性を伴います。
 急性毒性とは、動物実験で化学物質を1回投与するか短時間暴露してからだいたい数日以内に発症または死に至る毒性を指します。慢性毒性とは、化学物質を繰り返し投与するか長期間暴露したとき数カ月以上してから発症または死に至る毒性を指します。発がん性や生殖毒性も慢性毒性の一つで、急性毒性に比べ低濃度で現れます。
 PRTR、MSDS対象物質における有筈性のクラスは、中央環境審議会環境保健部会PRTR対象物質専門委員会、生活環境審議会生活環境部会PRTR法対象化学物質専門委員会、化学品審議会安全対策部会化学物質管理促進法対象物質検討分村会の合同会合において対象物質選定の際に定められたクラスであり、その概要は以下のようになっています。

 

● 発がんクラス

 発がん性にもとづき2つのクラスに分類されています。発がん性とは動物の正常細胞に作用して、細胞をがん化する性質のことで、分類に際してはIARC:国際がん研究機関、EPA:アメリカ環境保護庁、EU:欧州連合、NTP:米国毒性プログラム、ACGIH:米国産業衛生専門家会議、日本産業衛生学会の6つの機関の発がん性ランクを利用しています。

 

● 変異原クラス

 変異原性に関するいくつかの試験の結果より、変異原性を有すると認められるものをクラス1としています。変異原性とは突然変異を引き起こす性質のことで、発がん性などと関係があります。

 

● 経口クラス

 経口慢性毒性値はNOAEL:無毒性量、LOAEL:最小毒性量等で示され、3つのクラスに分類されています。経口慢性毒性とは、食物、飲料水または胃内への直接投与により、反復して長期間にわたって体内に入る化学物質による毒性です。

 

● 吸入クラス

 吸入慢性毒性値は、経口慢性毒性と同様にNOAEL、LOAEL等で示され、3つのクラスに分穎されています。吸入慢性毒性とは、呼吸によって反復して長期間にわたって体内に入る化学物質による毒性をいいます。

 

● 作業環境クラス

 ACGIHまたは日本産業衛生学会の示している作業環境許容濃度にもとづき、3つのクラスに分類されています。ACGIHでは、作業環境許容漂度をTLV(ThresholdLimitValue)と呼び、ほとんどすべての作業者が毎日繰り返し暴露しても、有雲な健康影響が現れないと考えられる化学物質の気中濃度をいいます。日本産業衛生学会では、許容濃度の定義として、労働者が1日8時間、1週間40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有書物質に暴露される場合に、当該有書物質の平均暴露漂度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い覧警が見られないと判断される漂度としています。

 

● 生殖クラス

 生殖/発生に関するEUのリスク警句にもとづき3つのクラスに分類されています。
 生殖/発生毒性とは、<雌雄の生殖及び発生機能に対する有害作用のことで、不妊や流産など出生力に影響を及ぽす性質などが含まています。

 

● 感作性クラス

  日本産業衛生学会やACGIH、EUリスク警句による分類にもとづき、感作性を有するとされるものをクラス1としています。感作性物質とは化学物質への反復暴露後に、暴露された人または動物の大部分にその正常な組織にアレルギー反応を生じさせる化学物質のことをいいます。

 

● 生態クラス

 慢性毒性データ(原則としてNOEC:無影響濃度)及び急性毒性データ(L(E)C50:半数致死(影響)濃度)を利用して、EUリスク警句の分類を参考に2つのクラスに分類されています。生態毒性は、主として魚、ミジンコ及び藻類に対する毒性が示され、魚については急性毒性試験及び延長毒性試験の結果、ミジンコについては急性遊泳阻害試験及び繁殖阻害試験の結果、藻類については生長阻害試験の結果により示されます。

 

● オゾン

 モントリオール議定書に記載のある物質をクラス1としています。
 オゾン層破壊物質とは、オゾン層を破壊し、太陽紫外放射の地表に到達する量を増加させることにより人の健康を損なうおそれがある物質で、「オゾン層破壊物質」としてモントリオール議定書に規定され、国際的にも合意されているものです。

 

 

○ 分解性、蓄積性

 

 化学物質は自然環境中で酸化したり、分解されたりするため、自然環境中での化学物質の寿命は数秒から数十年とさまざまです。分解されにくいものは「難分解性」であるといい、微生物に分解されやすいものは「生分解性がよい」といいます。
 また、化学物質は水によく溶けるものと、油によく溶けるものとに分類されます。例えば、タイオキシン類は水にほとんど溶けず油によく溶けるので、体内に取り込まれると脂肪にたまります。この性質を「蓄積性」といい、一般に水に溶けにくく油に溶けやすいものは体内の脂肪に蓄積しやすく、逆に水に溶けやすいものは体外へ排出されやすい傾向がみられます。

 

 

○ 排出量・移動量

 

 排出量:生産工程などから排ガスや排水等に含まれて環境中に排出される築一種指定化学物質の量をいいます。例えば、大気では排気ロや煙突からの排出ばかりではなくパイプの継ぎ日からの漏洩、水域では公共用水域への排出、土壌ではタンクやパイプから土壌への漏洩などが含まれます。
 移動量:その事業活動にかかる廃棄物の処理を当該事業所の外において行うことに伴い当該事業所の外に移動する策一種指定化物質の量のことで、具体的には下水道への移動量、他の産業廃棄物処理業者に廃棄物の処理を委託する際の移動量をいいます。

 

 

○ CAS番号

 

 アメリカ化学会の機関であるCAS(ChemicalAbstractsServIce)が化学物質に付与している登録番号で、******-**-*の数字で表わされます。世界共通の化学物質に対するコードで、約3,200万の登録があります
(2001年7用現在,http://www.cas.org/casdb.html参照)。

 

 

○ レスボンシフル・ケア

 

 事業者が、製品の開発から廃棄に至るすペての過程において環境保全・安全を確保することを主旨として行っている自主管理活動です。1985年にカナダではじまり、日本では1995(平成7)年に(社)日本化学工業協会が日本レスボンシフル・ケア協議会を設立し、医薬品、化学、プラスチック、ガラス、塗料などの製造業111社(2000(平成12)年4月現在)が加盟して取り組みを進めています。

 

 

○ MSDS(化学物質等安全データシート)

 

 個別の化学物質について、有筈性に関するデータ、取り扱い方、救急措置などの情報を記載したもので、これまでは企業が自主的に作成してきましたが、PRTR法などにより義務化されました。

 

 

○ 環境報告書

 

 事業者の環境負荷の状況や環境保全活動をまとめた年次報告書で、自主的な情報公表の手段となっています。冊子やインターネットで約400社が公表しており、次第にその数が増えつつあります。

 

 

○ 化学物質管理指針

 

 「化学物質管理指針」とは、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」第3条舞1項の規定に基づき、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止するため、事業者が講ずべき化学物質の管理理に係る措置を定めたものです。
 事業者は責務として、この指針に留意して、化学物質の取扱い等に係る管理を行うとともに、その管理の状況に関する国民の理解を深めるよう努めなければならないとされています。(化学物質管理指針:平成12年3月30日環境庁・通商産業省告示築1号)

 

 

○ リスクコミュニケーション

 

 リスクコミュニケーションとは、化学物質による環境リスク(人の健康や生態系に影響を及ぽすおそれ)に関する正確な情報を行政、事業者、国民、NGO等のすべての者が共有しつつ、相互に意志疎通を図ることです。