審査意見書




株式会社 森長組
代表取締役社長 森 長義



 南淡ビオファーム開発事業に係る環境影響評価準備書に関し、環境影響評価に関する条例(平成9年条例第6号)第20条第1項の規定に基づく審査意見は、下記のとおりである。

 平成13年1月26日

兵庫県知事 貝 原 俊 民



  標記の環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)について、環境の保全と創造の観点から審査を行った。
 当事業は、南淡町灘仁頃等の山林を開発し、野菜工場等を建設するもので、天候などに左右されず安定的に野菜等を供給するほか、“新しい村づくり”、“生活と生産の一体化”をテーマとした多彩な活動の場及び豊かな交流の場を提供するとともに、生産者の高齢化と後継者不足等の解決を図ることを目的としている。
 当計画地周辺は、良好な自然環境が残り、地域特有の生物相がみられる自然環境保全上重要な地域であることから、第1次審査意見書においても、「不必要な土地改変は厳に慎み、自然環境の保全を最優先事項にすべきである。」としたところである。これを受け準備書においては、環境影響評価概要書の段階と比較して改変面積を約120haから約101haへ縮小するとともに、建設工事に伴い発生する掘削残土の事業地外への持ち出し量を2500万mから2000万mへと削減する計画としているが、この計画変更において自然環境の保全のための影響の回避・最小化・代償などの観点からの検討過程が明らかにされていない。このような観点から多目的グランド・従業員住宅等各施設の必要性、規模及び位置を見直し、土地改変を最小限にとどめるため土地利用計画を見直す必要がある。
 第1次審査意見書において「環境影響の評価に当たっては安易に影響は軽微である旨結論づけるのではなく」としたところであるが、準備書では、環境影響評価の対象としたすべての項目で環境保全目標を満足し、本事業の実施が地域の環境の保全に支障を及ぼすことはないとしている。特に自然環境については自然環境創出区域や残置森林及び造成森林の存在をよりどころに「影響は軽減される」等と安易に結論を導いている面もあり、適切な評価となっていないことから、調査結果や知見をもとに適切に再評価を行う必要がある。
 今後、必要な見直しを行った事業計画をもとに、環境に与える影響の予測・評価及び具体的な環境保全措置を明らかにすることが必要である。
 予測評価、環境保全措置の検討に当たっては、以下の各要素ごとに述べる個別的事項に十分配慮すること。
 (1) 大気汚染
土工事については粉じんの発生を最小限にとどめるための適切な工事計画及び防じん対策を策定したうえで実施し、造成後は直ちに緑化を行うなど周辺地域への粉じんの飛散の防止に努めること。
 (2) 水質汚濁
 
  
@ 工事に伴う濁水については、全てを沈砂池に集水し沈殿処理後排出する必要があり、このために沈砂池が機能を発揮できるよう池の水量管理や堆積した土砂の除去等について適正に行う必要があり、調整池について適切な規模とすること。また、姫田川河口周辺の海域に及ぼす影響を定量的に把握し、これらに影響を及ぼすことのないよう濁水管理目標値を設定すること。
   A 海域での桟橋設置工事や土砂の搬出を行う場合には水生生物群や藻場への影響を避けるため、適切な保全対策を講じること。
 
 
  
B 供用後の処理水については、3次処理を行った後、植栽区域への散水のほか散水不要時には河川への排出を行うこととしているが、中水化とその利用を図る努力が望ましい。また、地域の地下水の保全のためにも雨水の地下涵養施設を設置することが望ましい。
 
  
C 当計画地からの排出先となる姫田川は良好な水質が保たれ、前面海域は海水浴場及び良好な漁場となっているが、事業の実施により工事排水及び供用後の処理水による水質悪化が考えられるため、河川だけでなく、海域においても事後監視調査を実施すること。
 (3) 騒音・振動
  予測に用いた土工機械の騒音・振動の発生原単位が通常の予測に使われているものより低いため、土工機械の稼働による騒音・振動の影響を測定し、問題が生じる場合には対策を講じること。なお、発破作業による騒音についても、その影響を定量的に把握すること。
 (4) 悪臭
生活系生ごみ及び下葉処理等で発生する生ごみの堆肥化施設については、適切に管理を行い悪臭の防止を図ること。
 (5) 廃棄物等
残土搬出計画については土地利用計画の見直しに対応したものとする必要があるとともに、残土を事業地外へ搬出する計画については、具体的搬出計画を明らかにしたうえで工事に着手することが望ましい。
 (6) 植物
残存する群落については、周辺の土地の改変に伴う生育環境の影響を最小限にとどめるため、周辺部において詳細な緑化・植生復元計画を策定し早期に現存植生の復元を図り、その維持管理には万全を図ることが必要である。自然環境創出区域の維持管理については、特に植生管理と水管理(水質、水量等)が重要であり、これらを踏まえた適切な維持管理計画を策定したうえで実施すること。
 (7) 陸生動物
 
  
@ 自然環境創出区域内の湿地、池周辺は、多くの種のトンボが確認されるなど、この計画地及びその周辺の陸生小動物にとって重要な存在意義を持つものと考えられるので、現状を維持するよう努めること。また、外部からの移動を期待するとしているが、そのためには周辺の生息状況について確認すること。さらに自然環境創出区域が周辺の緑地と分断されることにより小動物の移動が困難になることも懸念され、陸生動物の生息環境を考慮した対策を再度検討すること。
   A 発破作業による陸生動物への影響が考えられることから、その回数を明確にし、最小限にとどめること。
 
  
B ハヤブサの営巣地と工事箇所とは極めて近い距離にあり発破、土工機械及び残土搬出施設による騒音の影響は大きいと考えられるので、繁殖期は、営巣地近傍での土工事や残土搬出施設の運転を避けるべきであり、繁殖活動に入る兆候がある場合や繁殖期以外でも異常が見られれば直ちに工事を一時中止する態勢をとること。また、工事着手前からCCDカメラ等による常時監視を行い、対策を検討する委員会をあらかじめ設置しておくこと。なお、ハヤブサへの影響を回避するためにも、残土搬出施設の位置及び搬出方法についても変更する検討を行うことが望ましい。
 
  
C サシバ、ハチクマ等の猛禽類については、繁殖の可能性があることから、繁殖期において調査を実施し、予測評価とその保全対策の検討を行うこと。
 (8) 水生生物
  
 
計画区域内には調査を行っていないため池があり、今後貴重な種が確認された場合には、適切な保全対策を講じること。また、姫田川では汚水処理水が冬季等に放流された場合、水質悪化によりTAトゲエラカゲロウ等水生生物への影響が考えられること及び海上桟橋周辺では残土搬出に起因する砂泥化によりナメクジウオの生息環境に影響を及ぼすことも考えられるため、それぞれモニタリングを実施すること。さらに海上桟橋及び姫田川河口沖の海底は藻場の存在が十分考えられるので、藻場及び生物群集調査を実施し、影響を回避する方策を検討すること。
 (9) 生態系
   @ 計画地域内の植生の変化の予測だけでは生態系の予測評価を行ったとは言えず、準備書に示す生態系指標生物を中心に生態系の構造の変化を示すことが重要であり、これらについては調査結果をもとに再度予測評価を行うこと。生態系を保全していくための方法として、改変により消滅するおそれのある昆虫類や両生類等については、新たな生育地として自然環境創出区域を計画するとしているが、生態系を維持管理していくための適切な方法を検討すること。さらに猛禽類の調査結果によっては、猛禽類の生息環境の保全対策を検討すること。
   A 植生の復元と共に改変時消滅した種が復元してくると予測しているが、その供給源となる周辺地域の把握を行い、結果を自然環境創出区域の詳細設計及び維持管理に活かすこと。
 (10) 景観
計画地においては低層ではあるが花・野菜工場、従業員住宅等が建築されることから、建築物の実施設計にあたっては、周辺との景観に配慮した構造、デザイン等事業地の内部での囲繞景観面からの検討を行うことが望ましい。
 (11) 事後監視調査
  @ 環境保全措置の実施状況や周辺地域への影響等に関する事後監視調査は、造成工事の進捗に合わせて適切に行うとともに、自然環境創出区域等の植生の遷移・回復状況について適切な範囲で実施するための計画を策定すること。
  A 環境監視調査計画案に基づき毎年4月から翌年3月まで実施した1年間の調査の結果を同年6月報告するとしているが、ハヤブサについては抱卵期の3月から6月頃の雛の巣立ちまでが重要であることから、報告の方法や時期について再検討すること。水質における出水時調査においては、工事中年1回実施するとしているが、出水による影響を把握できるよう適切な時期、頻度で行うこと。
  B 環境保全対策や監視調査の実施、その他環境保全に関する配慮事項を体系的にドキュメント化するとともに、事業者の管理のもとで確実に行われるような態勢を設けること。なお、これら事後監視調査結果については、定期的に公表すること。
 (12) その他
@ 環境に与える影響の予測評価を検証するとともに、計画区域及びその周辺地域(海域を含む)の環境保全に資するため、学識者、関係行政機関を交えた委員会等を設置し、助言を受けることが望ましい。
  A 造成事業の長期化は、裸地の放置等により周辺環境へ与える影響が大きいと考えられるため、工事工程どおりビオファーム事業を実施するとともに、早期緑化を確実に行うこと。
B 今後の社会的状況等の変化によっては、事業が途中で中断したり、造成後の土地が裸地のまま長期間放置されることが懸念されるので、事業者において植生復元等のため財務会計上の適切な措置を講じることが望ましい。