審査意見書
                    

                                                                株式会社大林組
                                                   取締役社長 向笠 愼二


  (仮称)猪渕ゴルフ場建設計画に係る環境影響評価準備書(以下「準備書」という。) に関し、環境影響評価に関する条例(平成9年条例第6号)第20条第1項の規定に基づく審査意見は、下記のとおりである。


 平成12年10月16日


                                                   兵庫県知事 貝 原 俊 民
                  

                                                              記

 
 標記の環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)について、環境の保全と創造の観点から審査を行った。
 当該事業は、都市近郊の交通至便な地に新たなゴルフ場を建設するものである。また、事業者は、近年適切な管理がなされず荒廃しつつある里山的な山林を可能な限り残し良好に管理するとしている。
 準備書では、環境影響評価の対象としたすべての項目で、環境保全目標を満足しており、本事業の実施が地域の環境の保全に支障を及ぼすことはないとしている。
 しかしながら、当事業は自然環境に少なからず影響を及ぼすものと考えられるため、事業実施に当たっては、準備書記載の環境保全対策を着実に実施するほか、次の環境要素ごとに述べる事項に留意し、都市近郊の緑地としての地域の自然環境を可能な限り保全すること。

1 水質汚濁
 濁水が降雨時に調整池を通らずに排出されることがないようにするとともに、監視の結果、濁りが著しい場合には、調整池等の容量を十分に確保するなど万全を期すこと。
 また、農薬については、「ゴルフ場の芝草等管理マニュアル」を遵守するとともに、当該ゴルフ場で使用する農薬の環境への影響を周辺農地で使用されているものと区別して把握できるよう、適宜周辺河川の水質を調査しておくこと。

2 植物
 移植については、安易に考えるのではなく、貴重種の生息しているところはできるだけ改変しないよう努めることが必要である。やむを得ず改変する場合、貴重種の分布状況とともに、場所や密度が重要であることから、移植の難易度を考慮した上で、仮移植のための圃場を整備し、そこで養生した後に本移植すること。また、一年生植物の場合、種子の採取等による保全を実施するなど、慎重に対処するとともに移植が不成功となった場合に備えて、一部改変しない部分を残すなどの手法を含めて種子の保存を図ることが重要である。そのため、貴重種の移植の基本方針、移植対象植物、移植時期などを示した「移植計画」を評価書に記載すること。なお、植物目録については、再度確認のうえ評価書に記載すること。
 また、台場クヌギは、この地域の文化的シンボルと考えられるので、改変区域にあるものについても他の造成緑地等での積極的な活用を検討すること。
                               
3 陸上動物
 ほ乳類、鳥類については、工事中、周辺地に一時的に退避すると予想されるが、実のなる木を植裁する、巣箱をかけるなどの対策を講じ、これらの動物が改変区域に戻れるよう工夫すること。

4 水生生物
 水生生物の生息環境を創出するため、事業地内の水路等所要の箇所については、近自然工法を採用することを検討すること。

5 生態系
 計画地域内の残置森林や造成森林を夏緑2次林を中心とする良好な都市近郊の緑地として管理していくため、管理方法や森林の育成方法を検討し、その結果を評価書に記載するとともに、適切な植栽や保全を行うこと。
 また、多湿を要求する着生植物であるカヤランやクモランが生息しているスギ植林を確実に保全するため、周辺区域の改変に関しては、土壌の乾燥に注意し、影響を及ぼさないよう植栽の厚みと量を工夫する必要がある。やむなく伐採する樹木に着生しているカヤラン、クモランについても、残存樹林の樹木に人工的に着生させること。

6 事後監視
 工事中の濁水の監視を行うとともに、貴重植物種の移植結果を把握する必要がある。
 また、事後監視調査結果については定期的に報告するとともに、現時点では予測できない事項や著しい影響が生じるおそれがある場合には、関係機関と協議し、必要な措置を講ずること。
 そのほか、魚類についても、環境の変化を把握するため、周辺地域を含め事後監視の対象とすること。
 なお、環境保全対策の実施及び事後監視計画に基づく工事中の各段階での調査については、現場施工責任者の管理のもとで確実に行われるような体制を設けること。