T 基本的な考え方
 
1 趣 旨
 
 古来、水は自然の中で循環し、大きな恵みを与えてきた。人もこの恵みを受け、水とともに暮らしてきた。水は、生命の源であるとともに、大地を潤しながら、緑を育み、私たちに豊かな収穫をもたらした。人々は、水を利用して、物を運び、行き交い、さまざまな地域との結びつきを強めていった。水は、豊かな暮らしの象徴であった。
兵庫を流れるふるさとの川は、中国山地や丹波山地等に源を発し、北は日本海へ、南は瀬戸内海から紀伊水道へ、5つの国を流れながら、地域色豊かな暮らしと文化を醸成してきた。
 この水を利用して、20世紀後半、私たちは豊かな生活を築いてきた。その一方で、高度経済成長期以降の急激な都市化の進展に伴い、住宅立地や工業立地が進み、土地利用の転換が図られた結果、流域の風景は一変した。
同時に、水源として、また豊かな林産物の供給源として、日々の暮らしの中で大切に利用されてきた森林は、海外から輸入される安価な木材の市場への流入等の影響により、経済林としての価値を急速に低下させた結果、人が利用することのない、いわゆる放置林を生むに至った。
 ふるさとの森は、そこに棲む生き物とともに、かつての多様で豊かな姿を失われてきた。森から流れる川からは子どもたちの歓声が消えていった。川が注ぎ込む海では、重化学工業を中心とした立地によりさらに深刻な環境破壊を招き、藻場や干潟などが急速に失われていった。その結果、水はその循環のバランスを大きく崩すに至った。
「環境の世紀」と言われる21世紀は、そうした反省に立ちながら、「共生」と「循環」の理念のもと、私たちの英知を結集して、破壊された自然を元の豊かな姿へと回復していかなければならない。
 森や川や海は、私たちの日々の営みの関わりの中で、循環〜再生を繰り返している。また、国土のおよそ7割を占める森の変化は、そのまま森とともに暮らしてきた私たちのふるさとの変化を表している。そうした意味で、森や川や海の再生は、水がつなぐ人の営みの再生、人と自然の「環」を回復させる試みでもある。
 このような観点に立ち、新しい環境基本計画のもと、森・川・海の再生のための基本的な考え方及び進め方を「ひょうごの森・川・海再生プラン」として取りまとめ、推進していく。
 
2 性格・位置づけ
 
 このプランは、健全な水循環や人と自然との豊かな触れ合いを回復し、ひょうごの森・川・海の再生を目指すものであり、県が実施する施策・事業について、部局間の緊密な連携のもと、事業調整・進行管理を行うための基本的な事項を明らかにするものである。
 このため、森〜川〜海をつなぐ流域ぐるみでの施策を新たな視点に立って展開していくことが必要であり、「新ひょうごの森づくり」、「“ひょうご・人と自然の川づくり”基本理念・基本方針」、「瀬戸内なぎさ回廊づくり」等の各部局がそれぞれの目的のもとに実施する施策・事業について、環境面から評価し、事業調整・進行管理を行っていくものである。
 特に、流域に暮らす人々が、自ら成果指標を定め、これを確認しながら取り組んでいくことが重要であり、流域に暮らす人々と豊かな自然との関わりを回復させながら、このプランに全庁あげて取組み、「美しい兵庫」づくり〜新しいふるさとづくりを推進していく。
 このプランは、次のような性格・位置づけをもつものである。
@ ひょうごの森・川・海の再生に向けて、県が取り組む各種施策・事業の調整・進行管理を行うための基本指針
A 各部局の施策・事業の推進に当たって遵守されるべき、環境向上のための基本指針
B 県民、事業者、NPO、ボランティア団体、地域・地縁団体等流域に暮らす人々とともに、成果を検証しながら実現を目指す、ひょうごの環境の長期目標
 
3 基本的な視点
 
(1) 既成の枠組みを超えた総合的な取組
 
 これまで、森、川、海に係る施策展開は、森は林野庁、河川は国土交通省、流域の農地は農林水産省、海岸は国土交通省、これらに係る環境基準や生態系については環境省と分野別、機能別の取組が行われてきた。
 流域という広がりをもった生活空間は、所管省庁により細分化された結果、総合的な視点にたった施策展開はほとんど図られてこなかった。
 こうした反省に立ち、関係各部局の緊密な連携のもと、事業間の調整を図り、森・川・海の再生に係る施策に総合的に取り組んでいく。
 
(2) 分権時代の広域的な取組として県に期待される役割
 
 森・川・海とつながる流域の自然環境は、一市町の行政区域を越えて、いくつもの市町を包含する広がりをもっている。こうした自然環境を保全し、創造していくためには、広域行政を担う主体としての県が、その役割を最大限に発揮していくことが期待される。
このため、地域の総合事務所としての機能を有する県民局を核として、土木、農林、環境などの各分野の情報や人材を生かしながら、流域の環境保全と創造を推進していく。
 
(3) 河川流域単位での取組
 
 私たちのふるさとひょうごの河川は、大きく日本海に注ぎ込む水系と瀬戸内海へとつながる水系に二分される。中国山地、丹波山地を分水嶺とする各河川や淡路島の河川は、水量や水質の違いのみならず、流域に暮らす人々の産業活動や文化を映し出し、地域の個性を育んできた。
こうした流域の文化を大切にしつつ、地域が抱える実情や課題を解決していくためには、流域を単位とする住民の理解と共感に基づくパートナーシップが不可欠である。
このため、県下地域を主要な河川流域区分に分け、それぞれの流域区分ごとに再生・回復すべき目標を設定し、流域の実情に応じた取組を推進していく。
 
  (別紙1 “ひょうごの森・川・海再生に係る流域区分図”のとおり)
 
(4) わかりやすい目標の設定
 
 森・川・海をつなぎ、流域単位での取組を推進していくためには、それぞれの地域において、目指すべき将来像を共有し、その目標の実現に向けて、流域に暮らすすべての人々の参画と協働のもと、多彩な環境保全・創造活動の展開が図られることが必要である。
 このため、流域ごとの数値指標の設定はもちろん、例えば「メダカのすむ水路」「ホタルの舞う水辺」「秋の七草の咲く里山」などのわかりやすい目標を設定し、自治会や学校など、住民総ぐるみの環境保全・創造活動の展開を図っていく。
 
(5) ステップアップ方式による目標の実現
 
 高度経済成長期以降、急速に失われたひょうごの森・川・海の環境回復には、短期間で効果をあげる特効薬はない。求められるのは、再生と創造をめざす高い志のもと、継続して行われる流域住民、事業者などの日常的な活動の積み重ねである。
 このためには、流域住民、NPO、事業者、行政等の間で、再生に向けた目標やその手法についての共有化が図られなければならない。
 森・川・海再生プランでは、長期的には、本県沿岸域で大規模開発が始まる前(1950年前後)の環境を目標としつつ、当面は、20年後の平成33(2021)年度の中間目標を設定し、それに至る前期10年間を第1ステージ、後期10年間を第2ステージとするステップアップ方式により、環境の再生を図っていく。
 
4 施策の展開方向
 
(1) 失われた自然の再生・回復<生態系>
 
 20世紀後半、私たちは、自然からの恩恵を受け豊かな生活を築いてきたが、その一方で深刻な環境破壊を招き、ふるさとの美しい森・川・海(自然)とそこに息づく生態系を悪化させてきた。
 「環境の世紀」と言われる21世紀は、こうした反省に立ちながら、私たちの英知を結集して、破壊された自然・生態系を元の豊かな姿に再生・回復していくなかで、人と自然、人と野生動物の共生を図っていく。
 
(2) 健全な水循環の再生・回復<水> 
 私たちの命の源である水は、「降水→土壌水→地下水→地表水(河川・湖沼)→海洋」という循環系を形成し、この循環の中で、流域では、森や農地が雨水流出を抑制する保水・遊水機能を発揮してきた。また、河川においても、その自浄効果により、水の浄化が行われてきた。
 近年、開発の進展、森林管理の放棄、河川・海岸等のコンクリート化等により、一部でこれらの機能が著しく低下してきていることから、森・川・海をつなぐ健全な水循環の構築を図り、森林等の有する保水機能や河川・海岸の浄化機能等を再生・回復していく。
 
(3) 人と自然のつながりの再生・回復<人>
 
 森林の管理放棄、河川護岸等のコンクリート化、海岸の埋立、工業化により、人と自然が隔離された結果、人々の自然を愛着する心が薄れてきている。しかしながら、「森は海の恋人」のキャッチフレーズで始まった三陸の漁民の植林活動が、その後全国各地へ急速に広がり、県下でも千種川、矢田川等で同様の取組が始まるなど、人と自然との新しい関係づくりが広がりつつある。
 自然・生態系の回復や水循環の回復は、つまるところ、人が自然に手を入れながらつきあっていくという人と自然の関わりの再生・回復に他ならない。
こうした観点を踏まえながら、自然とそこに暮らす人々とのつながりを回復し、自然の再生に地域住民が直接関与していくシステムを構築していくとともに、それを支援する公共事業の推進を図っていかなければならない。
 これらの事業を通じて、上流と下流、森と海、都市と農山村など異なる地域に住む人々が交流を深めていく。
 
5 プランの推進期間
  平成14(2002)年度から平成33(2021)年度(20年間)
    第1ステージ : 10年間(平成14(2002)年度〜23(2011)年度)
    第2ステージ : 10年間(平成24(2012)年度〜33(2021)年度)


 
U 進め方 
 森・川・海をつなぐ自然環境の再生に係る施策・事業を、県民局を中心に流域住民の参画と協働のもとに推進するため、「森・川・海再生地域推進本部」(以下、「地域推進本部」という。)及び「森・川・海再生流域協議会」(以下、「流域協議会」という。)を設置する。
 また、本庁に「森・川・海再生推進本部」(以下、「推進本部」という。)及び「森・川・海再生懇話会」(以下、「懇話会」という。)を設置し、全県的な総合調整と県民局の取り組みに対する専門的な助言・支援を行う。
 
1 県民局での推進
 
(1) 推進体制
 
@ 地域推進本部の設置
 
 森・川・海の再生に係る目標・指標を設定するとともに、県民局内の各部が実施する施策・事業の総合調整、進行管理等を行うため、県民局長を本部長とする地域推進本部を設置する。
 
A 流域協議会の設置
 
 参画と協働による流域づくりを進めるため、流域住民、NPO等民間団体、事業者、行政等からなる流域協議会を流域区分ごとに設置する。
 なお、流域区分が2以上の県民局がまたがる場合については、流域を所管する主な県民局の協議により流域協議会の主管県民局を決定し、地域推進本部の連絡会を設置するなど、相互の連携のもとに進めていくものとする。
 

 
 
(2) 事業の推進
 
 地域推進本部は、流域住民等の参画と協働により、流域協議会での提言等を受け、わかりやすい目標等を定め、実施する施策・事業の総合調整、進行管理等を行うとともに、環境面の効果も検証しながら推進する。
 流域協議会では、地域の課題に応じた取組のあり方を検討し、地域推進本部への提言等を行うとともに、流域住民、NPO等民間団体、事業者が各々の役割に応じた自主的な取組に反映させていく。
 なお、検討に当たっては、必要に応じて、推進本部に設置する懇話会委員による専門的な助言を得るとともに、「こども流域探検隊」の実施により得られる意見も反映する。
 また、県民が森・川・海の再生への取り組み成果等を実感していくため、先導モデル地区を選定し施策・事業を推進する。
 
@ 流域事業の推進
 
ア 地域推進本部において所掌する事項
 
・流域区分ごとの森・川・海再生プランの策定(目標・指標の設定、目標等を達成するための進め方)
・施策・事業の総合調整・進行管理
・先導モデル地区事業の選定・推進
・流域協議会との連携・調整
・推進本部との調整、他の地域推進本部との連携
・施策の普及啓発 等
 
なお、主要施策は別紙2のとおりである。
 
イ 流域協議会において所掌する事項
 
・流域全体の森・川・海再生プランの検討
(プランの内容)
・目標・指標、目標達成のための方策
・各主体の役割分担に応じた取組
・環境面からの効果の検証方法 等
 
A 先導モデル地区事業の推進
 
 「森と川と海」又は「森と川」、「川と海」、「森と海」をつなぐ先導モデル地区を設定し、地区住民の参画と協働により事業を実施していく。
 先導モデル地区設定に当たっては、地元に暮らす人々の参画と協働により、地区協議会を設置し、わかりやすい目標を定めて効果を検証しながら事業を実施する。
 先導モデル事業は数年以上をかけて取り組み、これまで実施してきた水生生物調査等の成果を生かし評価項目を設定するほか、他の評価方法について懇話会委員等の意見を聴きながら調査研究する。
 
B 普及啓発の推進
 
 啓発用パンフの配布、流域マップの作成・配布を通して普及啓発を図るほか、流域の未来を担うこどもたちが、流域の身近な森・川・海での実体験の中で、考え、行動する知恵を身につけ、未来のすぐれた環境づくりへとつなげていくことを目的とした、「こども流域探検隊」の活動に協力する。
 
(3) 地域の目標・指標の設定
 
 地域推進本部では、地域の実情に応じた目標・指標を設定する。
 
@ 目 標
 推進本部が設定する全県の施策目標(表−2)を勘案し、地域での目標を設定する。
 
 
A 成果指標
 流域協議会の意見を踏まえ、地域固有の成果指標を定めるとともに、成果を確認する場所や手法を定め、成果を確認しながら推進する。
 
2 本庁での推進
 
(1) 推進体制
 
@ 推進本部の設置

 森・川・海に係る施策の総合調整並びに各部局及び地域推進本部が実施する事業の進行管理を行うため、知事を本部長とする推進本部を設置する。
 
A 懇話会の設置
 
 県下全域の指標・目標及び流域における目標等における専門的な指導・助言を得るため、各分野の専門家からなる懇話会を設置し、運営する。
*懇話会のイメージ : 協働、生物、森林、河川、海洋等の専門家・NPO等で構成
 
(2) 事業の推進
 
 県下全体の目標を定め、事業の進行管理を行うとともに、地域推進本部との事業調整及び環境面の効果の検証を行う。
 なお、環境面からの定量的効果の検証については、懇話会の指導・助言を得ながら調査研究する。
 また、普及啓発を進めるため、パンフレットを作成するほか、「こども流域探検隊」の活動を推進する。
 
推進本部において所掌する事項は、次のとおりとする。
・施策の基本的方針の設定と進行管理
 (全県の目標(指標)の設定、目標達成度の定期的点検・管理)
・各事業間の連携・調整
・地域推進本部との調整
・森・川・海再生懇話会との連携・調整
 
(3) 全県の目標・指標の設定
 
@ 目 標
 
 「新ひょうごの森づくり」、「“ひょうご・人と自然の川づくり”基本理念・基本方針」、「ひょうご農林水産ビジョン2010」、「瀬戸内なぎさ回廊づくり」、「せとうち環境創造ビジョン」等に基づき、(表−2)のとおり全県の施策目標を設定する。
 
A 成果指標
 地域推進本部による成果を踏まえ、全県の成果指標を定め、成果を取りまとめる。