第2部 兵庫県の環境に関する現状と課題
 
第1節 環境を巡る概況
 
1 時代の潮流
 
○社会の成熟化
・日本経済は、高度成長から低成長の時代へと移行しており、人々が物の豊かさよりも心の豊かさを求める流れの中で、生きがいやライフスタイル*1、働き方や住まい方などに対する個人の価値観の多様化が進んできました。
・これまでの官主導・集権型から民自律・分権型社会への構造転換が求められており、公共的領域における行政と県民との協働のしくみづくりの検討が始まっているなど、県民をはじめとする各主体の責任に裏打ちされた自主性、自立性が重んじられる社会へ移行しつつあります。
・人々の自由時間の増大、参加意欲の向上などにより、地域づくりなどへの自発的な参加が増えています。また、国の権限が地方自治体に委譲される中、地方自治体が地域の経営に果たす責任と役割が増えています。
・阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、社会ニーズの中で、これまでの行政施策が及ばなかった部分を住民自らが行おうとする団体や組織が芽生え、活躍しています。
 
○少子高齢化と人口減少の進行
・出生数の減少と並行して高齢化が進んでおり、我が国は本格的な少子高齢社会へ移行します。
・少子高齢化の結果、日本はまもなく人口減少へ向かい、本県においても2010年頃をピークに減少局面へ移行し、この傾向は長期に続くと推計されています。
 
○情報化・IT(情報通信技術)革命の進展
・パソコンやインターネットの普及などにより、情報通信に関する技術革新が、驚くべきスピードで進んでいますが、この動きは単に生活の利便性を高めたり、経済発展の推進力になるだけではなく、生活やビジネスのあり方、さらには社会の制度やしくみまでを変えています。
 
○グローバル化の進展
・20世紀後半にはじまったグローバル化の動きは、経済や人の往来はもとより、情報伝達や文化活動など日常生活の様々な面に及んでいます。
・グローバル化の進展による国際的な大競争時代の中で、地球規模の市場拡大や制度や技術をめぐる世界標準の確立、規制緩和などが起こっています。
 
2 環境に関する国内外情勢
 
○都市・生活型公害への変化
・工業地帯での産業公害問題が改善へ向かう中で、最近では都市全体からの生活 排水や自動車の排出ガスなど、地域に広く分散する汚染源による環境負荷が都 市・生活型公害として浮上してきています。
 
○地球環境問題の深刻化
・二酸化炭素(炭酸ガス)等の温室効果ガス*2の濃度の上昇による地球の温暖化、フロンなどによるオゾン*3層の破壊や酸性雨*4など、地球規模での環境問題が深刻な様相を帯び、世界中でとりくみが進められていますが、まだ十分ではありません。
 
○循環型社会への移行
・人々が物の豊かさよりも心の豊かさを重視する傾向が強まる中で、大量生産・大量消費・大量廃棄を生み出す社会のあり方への疑問が広がるとともに、地球温暖化防止をはじめとする環境保全のためには、社会経済システム自体の変革が必要であるという考え方が強まっています。
 
○環境リスク*5の顕在化                 
・環境に影響を及ぼすおそれのある多数の化学物質が、恒常的に環境中に排出されていることによる人の健康や生態系への影響、ダイオキシンなど微量ではあるが長期的な暴露によって人の健康が脅かされるなどの環境リスクの高まりについて懸念が生じています。
・そうしたことを背景として、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)*6などに示されるように、人々が環境情報を知ることができるということが重視されるようになっています。
 
○生物多様性*7の危機
・生物多様性とは地球上の生物の多様さとその生息環境の多様さを示しますが、人間の活動に伴う環境変化の影響で生物多様性が損なわれ、多くの生物種や生態系が存在の危機に直面しています。
・これまで種の絶滅は自然のプロセス(過程)の中で絶えず起こってきたことですが、現在の動きは地球の歴史始まって以来のスピードであり、またその原因が人間の活動に起因するものとなっています。
・近年、「多様な生物が生息できる環境こそが実は人間にとっても安全な環境である」という理解が進んできています。そして生物多様性条約が1993年に発効するなど野生生物種や生態系を保全するための国際的なとりくみが展開されており、国内的にも「種の保存法」が制定されるなどとりくみが進んできています。
 
○環境効率*8の重視等
・環境負荷を低減させながら経済性を向上させる「環境効率」という考え方が世界的に重視されてきています。
・また、「拡大生産者責任*9」に表されるように、事業者の責任についても新たな考え方が示されています。
 
○持続可能な社会の形成に向けたとりくみの活発化
・持続可能な社会の形成に向けて、個人、民間団体、企業、行政のとりくみが広い範囲で活発化しています。そしてその中で、環境と社会と経済の面で、企業の社会的責任がより強く認識されてきています。
 
第2節 兵庫県の基本特性
 
1 自然特性
 
(1) 日本のほぼ中央で、日本海と瀬戸内海・太平洋の両方に面しています
○本県は、本州の中にあって日本のほぼ中央に位置し、総面積は8,392km(平成
 12年10月1日現在)、北は日本海、南は瀬戸内海に面する日本の縮図といわれる地理的特徴を持っています。
 
(2) 日本海型、内陸型、瀬戸内海型の3つの気候があります
○本県の気候は、北の日本海型、山間部の内陸型、南の瀬戸内海型の3つに大別されます。
・但馬地域は、日本海に面し、冬季には降雪の多い日本海型気候であり、内陸部では盆地性の地形と円山川等からもたらされる湿った空気により霧の発生が多くなっています。
・丹波地域等の内陸部は、寒暖の差が大きい内陸型気候であり、盆地や川沿い等で霧が多く発生します。
・神戸・阪神地域、播磨地域、淡路地域は、瀬戸内海に面しており、温暖で日照時間が長く降水量が少ない瀬戸内海型気候となっています。
 
(3) 地形はとても多様です
○中国山地と丹波山地がほぼ県の中央を東西に横切り、これによって県域は大きく南北に分けられています。
・中国山地は、複雑な地形を有し、起伏に富んでいます。県下最高峰の氷ノ山(1,510m)をはじめ、1,000m級の山々が連なり、東に行くに連れて低くなり丹波山地へ続いています。
・丹波山地は、標高が400〜800mと低く、中央部には氷上盆地や篠山盆地が形成されており、北摂山地や六甲山地を経て淡路島へと続いています。
○大阪湾及び播磨灘に面した地域には、瀬戸内海に流れ込む諸河川による土砂の堆積と隆起運動との複合効果により、海岸平野として武庫平野や播磨平野が形成されています。
○日本海側は、沈降型の地殻運動の性格を強く反映して広い海岸平野の発達はなく、各河川沿いに細長い谷底平野が分布しているだけとなっています。
○河川は、1級河川が5水系、2級河川が93水系、合計98水系あります。これらは、地理的条件から大阪湾に流れる川、播磨灘に流れる川、日本海に流れる川に大別されます。
○丹波地域には、日本一標高の低い(96m)中央分水界があり、動植物の分布にも影響を与えています。
○海岸線は、瀬戸内海の穏やかな砂浜や都市部の人工護岸から日本海の荒々しい断崖海岸まで変化に富んでいます。
○降水量の少ない瀬戸内海沿岸地域には、農業用ため池が多く分布しています。
 
(4) 多様な生物が生息・生育しています
○本県は、日本の中央に位置し、3つの気候区を結ぶ地形上の回廊(氷上回廊など)が存在し、日本海側と瀬戸内海側との生物相の交流がみられるなど、東西南北の動植物の接点となっています。
○こうした自然的条件に加え、ため池や里山など人の手により維持されてきた多様な環境もあるため、生物多様性が極めて高い地域です。特にため池、多数の河川等によって、水生生物の宝庫になっています。
○長い歴史の中で北摂の里山は池田炭(一庫炭)の生産の場として育成されてきた経緯があり、歴史性や生物多様性の観点から、また、木炭生産が現在も続いているなどの点から全国的に見ても高い評価を得ています。
○しかしながら、全県的に見れば各種産業の発達、宅地化の進展などによって自然植生はほとんど失われ、一方、これまで管理されてきた里山も放置され、その結果、地域全体の多様な植生が失われようとしており、自然植生の保全が必要となっています。
○猪名川、武庫川、加古川、円山川などの河川が都市の中を流れ、都市部において身近な緑を創り出していますが、水辺の緑をはじめとした都市部における公園や緑地などの緑をさらに増やすことが求められています。
○本県には温帯・冷温帯の種が中心に分布していますが、淡路地域では、島の地理的な位置や気候条件から、三熊山をはじめとする照葉樹林には暖地性の植物が、各地の自然海岸には海浜植物が多く見られ貴重な自然となっています。
 
2 社会特性
 
(1) 多様な風土と豊かな歴史文化が育まれてきました
○本県は、古の摂津国と丹波国の一部、播磨国、但馬国、淡路国から構成され、明治の廃藩置県等により現在の県域が成立しました。これらの旧国は、風土の違いを背景に、それぞれ独自の文化を育んできました。
○また、明治維新期における日本の近代化を先導した歴史と進取の気風を有しているとともに、国際港神戸に象徴されるよう国際性にも富んでいます。
 
(2) 県土は約7割が森林で、瀬戸内海沿いに市街地が集まっています
○本県における土地利用の形態は、森林が県土の67%と最も多く、次いで農地が10%、宅地が7%となっています。
○西日本国土軸*10上に位置する瀬戸内海に面した沿岸域に、各種の都市機能が集積し市街地が発達しています。近年は、中国自動車道沿道等内陸部の東西軸に沿って、各種都市機能の集積が進みつつあります。
 
(3) 約555万の人口のうち約8割が瀬戸内海沿いに住んでいます
○本県の人口は、約555万人(平成12年10月1日現在、国勢調査)で、全国人口の
 4.4%(第8位)にあたります。このうち神戸・阪神地域に全人口の57%が、さらに東播磨・西播磨各地域の南部をあわせると県内人口の約8割が臨海部に集中しています。       
○人口密度は661.4人/kuで、これも全国第8位(全国平均340.4人/ku、平成
 12年10月1日現在)となっています。このうち、神戸・阪神地域(2644.4人/ku)が極めて高密で、次いで東播磨地域(965.5人/ku)が県平均を上回っています。
 
(4) 多様な産業が展開されており、特に全国と比べて製造業が盛んな県です
○本県の産業は、第3次産業の占める割合が高く、産業別就業人口のうち65%(平成12年度国勢調査)を占めていますが、全国と比較すると第2次産業の割合が高く、特に製造業の割合が高くなっています。       
○第1次産業では、農林業は近畿の主要な生産地であり、水産業は瀬戸内海・日本海地域における拠点となっています。
○県内総生産額は約20兆円(平成11年度)で、全国第7位となっています。
 
(5) 交流基盤が充実しています
○高速道路網や陸海空の広域交通基盤が整備され、西日本の交通の要衝となっています。また、県内においても、高速自動車国道等の供用延長は全国第1位であり、県内1時間高速交通圏の確立をめざし、整備が進められています。
○大都市と自然豊かな農山漁村、過密地域と過疎地域など様々な地域が共存する本県の特色から、ふるさと青年協力隊や走る県民教室など循環型の交流を基調とした交流・連携施策が積極的に展開されています。
○全国的に評価されている洗練された都市文化に支えられ、大学や美術館・博物館など多くの研究・教育機関が立地しており、水準の高い知的インフラが整っています。
 
(6) 県民の自立的な生活創造活動が実践されています
○本県では、福祉やまちづくり、環境問題などの分野において、県民の自発的で自立的な活動である「県民運動」が10年以上前から展開されてきました。
○阪神・淡路大震災において大きな役割を果たしたボランティア活動の高まりを受けて、「県民ボランタリー活動の促進等に関する条例」が制定されるなど、こうした活動に対する支援の基盤づくりも進められています。
 
3 兵庫県の環境行政の歩み
                                       
【昭和30年代〜50年代】
○公害・環境問題へ先進的に取り組みました
 兵庫県では、昭和30年代から40年代にかけて、高度経済成長とともに阪神や播磨等の瀬戸内海沿岸部の工業地帯を中心とした産業活動に伴う大気・水等の生活環境の汚染や開発に伴う自然環境の破壊といった公害問題が生じました。 これらの公害問題に対して、総合的な対策を実施するための早急な法整備が求められる中、兵庫県においては、国に先んじて公害防止条例(昭和40年)や自然環境保全条例(昭和46年)を制定し、問題解決に取り組んできました。
 国における公害対策基本法(昭和42年)や自然環境保全法(昭和47年)の制定後は、これらの法と条例の体系のもと、国や県・市町、県民、事業者が、独自にあるいは協力して、環境問題の解決に取り組み、各分野でのよりきめ細やかな規制等の対策を推進してきました。その中で「地域環境計画」(昭和52年)を策定し、環境容量という考えを取り込み、県土の環境管理などに取り組みました。
 
【昭和60年代〜平成初頭】
○快適な環境創造に向けて施策を推進してきました
 その後、全県全土公園化の推進に関する条例(昭和60年)を制定するとともに、「地域環境計画(ひょうご快適環境プラン)」(平成2年)を策定し、快適な環境を創造するための政策を積極的に推進してきました。このように本県では、公害の防止、自然環境の保全、快適な環境の創造に取り組み、「さわやかな県土づくり」を進めてきました。
 
【平成7年〜】
○環境問題への広がりへの体系的・総合的対応を行ってきました
 しかしながら、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式が定着するとともに、人口や社会経済活動の都市への集中が進んだことにより、従来の産業型公害に加え新たに自動車公害、生活排水、廃棄物の増大等の都市・生活型公害が問題となり、さらには、地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊等の地球規模の環境問題が顕在化してきました。
 また、阪神・淡路大震災(平成7年1月)は、自然への畏敬の念を失ってはならないという戒めを与えるとともに、人と人との協力の大切さとそれがもたらす成果の大きさを示しました。
                     
 こうした中、兵庫県では「環境の保全と創造に関する条例」(平成7年)(以下、「環境条例」という。)を制定し、環境適合型社会の形成をめざし、社会の構成員すべての参画と協働を基調として、健全で恵み豊かな環境を保全し、ゆとりと潤いのある美しい環境を創造するための兵庫県の環境特性を踏まえた施策を、県民の総意として総合的かつ計画的に推進することとしました。
 
○兵庫県環境基本計画を着実に推進してきました
 そしてこの環境適合型社会の実現に向けた環境政策を推進するため、「兵庫県環境基本計画」(平成8年)を策定し、@社会の構成員すべての参画と協働の推進、A循環を基調とする地域環境への負荷の低減、B豊かで多様な自然環境の保全、Cゆとりと潤いのある美しい環境の創造、D地域からの地球環境保全の推進を目標に掲げ、施策を推進してきました。
 
【兵庫県環境基本計画に基づく施策実施例】
 
<社会の構成員すべての参画と協働の推進>

 ・(財)ひょうご環境創造協会の設立
 ・環境にやさしい買物運動の実施
 ・エコツーリズム*11バスの運行支援
 ・こども環境通信員登録制度及びこども環境会議の実施
 ・県としてのISO14001の認証取得
 ・環境影響評価*12に関する条例の施行
<循環を基調とする地域環境への負荷の低減>
 ・アイドリング・ストップ運動の展開
 ・兵庫県自動車公害防止計画の策定・推進
 ・資源循環利用促進計画の策定・推進
 ・第2期兵庫県分別収集促進計画の策定・推進
 ・兵庫県ダイオキシン類削減プログラムの策定・推進
<豊かで多様な自然環境の保全>
 ・兵庫県版レッドデータブックの改訂
 ・県立コウノトリの郷公園におけるコウノトリの保護・増殖
<ゆとりと潤いのある美しい環境の創造>
 ・緑の総量確保推進計画の推進
 ・流域水環境保全創造指針の策定・推進
<地域からの地球環境保全の推進>
 ・新兵庫県地球温暖化防止推進計画の策定
 ・フロンの排出規制
 ・アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)センターの開設
 ・地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センターの開設
 
 
 これらのとりくみの結果、各分野において環境の保全と創造に向けた施策の進展が図られました。しかしながら、環境問題を巡る状況は、地球環境問題の深刻化や新たな有害化学物質問題の顕在化など予想を上回る速度と広がりで困難さを増しており、これらの新たな課題に一層総合的に対応することが課題となっています。
 
4 県民(おとな・こども)・事業者の環境に関する意識
 
 平成12年度において、県民(おとな・こども)・事業者を対象に、「ひょうごの環境」についての意識調査を実施しました。
 本調査においては、地域の環境についての評価や環境に配慮したとりくみの状況、さらには参画と協働に向けての意識などの項目についてアンケート調査を行い、前回調査(平成7年度)の結果とも比較しながら分析を行いました。
 その主な結果は、次のとおりです。
 
県民(おとな・こども)、事業者に共通して、環境を大切にすべきであるといった意識の高まりが見られ、日々の暮らしや事業活動の中で、ごみの分別やリサイクルなど環境に配慮したとりくみが着実に定着しつつあります。
○環境を大切にしたいと考えている県民(おとな・こども)、事業者の中には、そうした意識が実践につながりにくい現状も見受けられることから、そうした思いを行動につなげていくためのしくみづくりが今後の課題となっています。
環境保全創造のための経済的負担のあり方、あるいは地域活動への参加などに対する考え方は多様であり、中でも、こどもはおとなに比べ、環境の保全創造より便利な生活を優先したいという傾向もうかがえることから、環境教育・学習の一層の充実や社会的システムの構築による実践の促進などが重要となっています。
環境に関するこどものとりくみ・意識については、家族の影響が大きく、今後、おとな、特に親の行動により、こどものライフスタイルや意識も変化していくと思われることから、これまで以上に家庭における環境配慮の実践を進めていく必要があります。
○県民、事業者、民間団体や行政等の主体間の協力・連携については、進展はしているものの、まだ十分とは言えず、そのための社会システムの構築や直接的支援への要望も高くなっています。
 
第3節 兵庫県の環境の現状と課題
 
1 生活活動や経済活動が環境に大きな負荷を与えるものとなっています
 
○生活水準の向上、生活の利便性の追求に伴い定着した大量消費・大量廃棄型のライフスタイルや社会経済システムは、環境へ過大な負荷をかけるものとなっています。これまでの産業活動や人々のくらし方によって引き起こされた環境問題が深刻さを増し、いまや人類の生存さえも揺るがす重大な課題となっています。
○社会の構成員すべてが、日常生活や事業活動を通じて直接的・間接的に環境へ負荷を与えていることを認識し、「環境倫理(環境に配慮する行動規範)」を持つことが必要です。
○現状の枠組みの中での努力にとどまらず、生活行動や経済活動を環境の保全と創造が組み込まれた新たなものに変革することが求められています。
○生活行動においては、環境への負荷が大幅に少ない新たなスタイルについての社会的共通認識を確立し、それを実践していくことが求められています。
 
2 環境の保全と創造と健全な経済活動が併せて実現できるしくみが必要です
 
○本県は、人口が全国第8位と多く、また、瀬戸内海沿岸域に重化学工業などの割合が高い臨海工業地帯が形成されていることから、国内他地域に比べると資源・エネルギーを多く消費する社会経済構造となっています。
○経済活動においては、環境の保全と創造と健全な経済活動が併せて実現できるしくみを盛り込むとともに、環境への負荷の低減や環境の保全と創造に貢献する産業を育成していくことが必要です。
○県内の事業者においてはハイテク分野やIT(情報通信技術)分野への展開が見られるほか、臨海工業地帯などにおいて、使用済製品の再資源化など環境への負荷の低減に貢献する産業の立地や、重厚長大型産業からサービス産業への産業構造の変化などが進みつつあります。
 
3 様々な分野やレベルで、より多くの活動主体が求められています
 
○これまで受け継がれてきた豊かな知恵を発展・継承していくとともに、心の豊かさに結びつく心地よさを大切にして、環境の保全と創造に係るとりくみを楽しみながら実践していくことが望まれます。
○環境問題が多様化・複雑化し、多岐の分野にわたる環境の保全と創造が必要となっている今日、様々な分野やレベルで、より多くの活動主体(担い手)が必要となっています。
○廃棄物処理やリサイクルの問題などは、県民個々の生活や事業活動が直接起因し影響するものであることから、それぞれの地域の住民や事業者が、自ら考え、自ら行動していくことが強く求められます。
○緑や水辺などに代表される豊かな環境づくりについては、私たち自らが、暮らしとの関わりを持ちながら、より多様な姿で具体化していくことが必要になっています。
○事業者におけるISO14001の認証取得に見られるように、環境マネジメント(環境管理)システム*13の導入など国・自治体の枠を超えたグローバル・スタンダードでの自主的なとりくみが進められつつあります。
 
4 すべての活動主体の参画と協働をより強化することが必要です
 
○環境への負荷や環境の恵みの享受の程度に応じて社会の構成員すべてが労力的・精神的・財政的な負担を分担し、各々の責務を全うすることで、相互の協力・連携を深めることが必要です。また、そのための社会的しくみづくりや直接的支援なども必要です。
○本県は、阪神・淡路大震災の経験から、県民や事業者、行政などの主体間の協力・連携が様々な分野で進んでおり、また、環境に関する民間団体の数やこどもエコクラブ*14登録数が全国的に高い水準にあるなど、優れた発展可能性を有しています。
○これまでの環境の保全と創造のとりくみに関しては、行政による規制・誘導や公有地化・公的管理などにより、公害対策や自然保護などにおいて大きな成果をあげてきましたが、今後は、規制を前提としながらも各主体の自律性を高め、自主的な努力を促進する一方、透明性や公平性を確保するための新たな社会的枠組みをつくることが必要となっています。
 
5 環境面における20世紀の負の遺産が多く残っています
 
○化石燃料や鉱物資源等は限りある資源であり、大量生産・大量消費システムを続け、これを使い尽くしてしまえば、我々の生活が成り立たなくなります。これらの限りある資源は、世代間、地域間を越えた共通の財産として効率的に使用していかなければなりません。
○20世紀は、社会経済構造の急激な変化に伴い、人の手により環境が大きく改変された100年でしたが、物質的豊かさの追求の結果生じた環境の汚染や自然環境の破壊などの20世紀の負の遺産を将来世代へ残さないよう、その解消に早急に取り組むとともに、新たな質の高い環境を創造していくことが求められています。
○これまでの環境施策においては、環境を「保全」することに重点がおかれてきましたが、新たな環境を「創造」していくことについても、保全とともに、さらに推進していくことが必要です。
○明治初期には裸の山であった六甲山が、先人の努力により、現在では緑に覆われ、100年後の私たちが恩恵を受けている状況になっていることが示すように、優れた環境を次の世代へ残していくことは私たちの責務です。
○平成12年に開催された「淡路花博」は、失った自然を積極的に回復・復元した先導的なモデルとして、その可能性や今後の方向を全国に発信したものです。半年の開催期間に目標を大きく上回る約700万人もの人々の来場を得たことは、「自然環境の回復と創造」という理念が幅広い共感を得たことを表しています。
○ゆとりと潤いのある美しい環境は、私たちが努力して保全するか新たに創りださなければ決して手に入りません。新しい時代をめざし、意識を見直していくことが私たち全員に求められており、そのための施策を拡充していくことが必要となってい
ます。
 
6 自動車や生活排水などによる様々な都市・生活型公害が生じています
 
○本県は、人口一人あたりの二酸化炭素や廃棄物の発生量が全国的にみて多いなど、環境への負荷が大きい地域となっています。
○瀬戸内海沿岸域の都市部では自動車交通が大気環境へ大きな影響を及ぼしているほか、様々な都市・生活型公害が生じています。
○「環境基準」の達成状況は全体的には大幅に改善されていますが、「二酸化窒素」、「浮遊粒子状物質*15」、「光化学オキシダント*16」などの物質については、まだ達成していない所が残っており、これらへの対応が課題です。
○閉鎖性水域である瀬戸内海においては、富栄養化*17により水質汚濁の改善が進んでいません。
○最終処分場をはじめとする廃棄物処理施設の立地が困難となってきており、将来的に適正処理がなされない廃棄物が環境中にあふれ、我々の生活環境へ重大な影響を及ぼすことも予想されます。
○社会が持続的に発展していくためには、二酸化炭素排出量や廃棄物などの環境への負荷を現在の水準から大幅に減らすことが急務となっています。
 
7 里山やため池など豊かで多様な自然環境が失われつつあります
 
○本県は、地形・気候などの自然条件の特色から生物の多様性は非常に高い状況にあります。しかし近年は、その生物多様性の一翼を担ってきた里山やため池など人為的に維持されてきた環境が、管理の低下などにより荒廃が進みつつあります。
○藻場*18・干潟の減少により、海での生物の多様性や人と海とのふれあいの場が失われつつあります。
○こうした事態に対し、全県的な自然保全への理解と気運が高まり、様々な保全・回復への対応が検討、実施されつつありますが、さらに積極的な推進が必要です。
○本県の都市部における緑地等の自然空間の確保のために、河川や身近に残された鎮守の森の緑などが重要な役割を果たしていることから、これらを保全するとともに、今後も公園や緑地など新たな自然空間を創造していくことが必要です。
○兵庫の風土が育くんできた生物多様性やゆとりと潤いのある美しい環境などを保全・継承することが必要です。
 
8 地球環境問題には県民一人ひとりの行動が深く関わっています
 
○環境への負荷が大幅に増大し、その結果、地球温暖化やオゾン*19層の破壊、酸性雨、熱帯雨林の減少などの地球規模の環境問題が生じるなど、「環境の叫び」に耳を傾けない限り、人類の存続そのものが危うくなっています。
○地球環境問題には、事業活動だけでなく県民一人ひとりの行動が深く関わっていることから、地域レベルでのとりくみが一層重要なものとなっています。すべての県民が、地球環境の有限性を認識し、「地球環境市民」としての意識を持ちながら人類の持続可能な発展を支えていく必要があります。

[参考表:兵庫県の環境の現況の全国比較]                  
区    分
指    標
順   位
備    考
     
基礎事項
人口
全国8位 約555万人(H12年国勢調査) 
人口密度
全国8位 約661人/ku (H12年国勢調査) 
県内総生産額
全国7位 約20兆円(H11年度) 
森林面積
全国14位 562,881ha(H12年度) 
総合的環境対策
環境基本条例の制定時期
全国14番目  出典:環境庁「地方公共団体の環境保全対策調査」 
環境影響評価制度の制度化時期
全国6番目  出典:環境庁調べ 
環境保全・創造活動
 
こどもエコクラブクラブ数
全国8位  145(H13年度末)
出典:こどもエコクラブ全国事務局資料
こどもエコクラブ会員登録数 全国8位  2,593名(H13年度末)
出典:こどもエコクラブ全国事務局資料
環境NGO数  全国10位  149団体
出典:環境事業団「H13年度環境NGO総覧」
ISO認証取得事業所数  全国7位  313事業所(平成14年2月末)
出典:(財)日本規格協会調べ
 
大気環境保全
 
二酸化窒素の環境基準の達成率  全国ワースト9位  83.3%(自動車排出ガス測定局ベース)
出典:環境庁「平成12年度大気汚染状況」
浮遊粒子状物質の環境基準の達成率  全国ワースト14位  93.8%(自動車排出ガス測定局ベース)
出典:環境庁「平成12年度大気汚染状況」
低公害車普及台数  全国6位  2,693台(H12年度末)
出典:(財)自動車検査登録協会自動車保有車両数
 
アイドリング規制  全国初  平成7年7月
出典:兵庫県調べ
 
水環境保全
生活排水処理率  全国3位  90%(H12年度末)
出典:農林水産・国土交通・環境3省調べ
瀬戸内海におけるCOD削減率 13府県中2位  52%(H11年度実績/S54年実績)
出典:環境省水質規制課調べ
 
廃棄物適正処理
 
1人1日あたりごみ発生量  全国ワースト3位  1,313g/人・日
出典:厚生省「日本の廃棄物処理H11年度版」
資源化施設設置数  全国3位  28施設
出典:厚生省「日本の廃棄物処理H11年度版」
再生資源利用促進基準策定時期
全国初  H7年7月

 
自然環境保全・創造
 
県版レッドデータブックの作成時期 全国初  神奈川県と同時
出典:(財)日本資源保護協会調べH10年9月
県立自然公園面積  全国4位  121,357ha(H11年度末)
出典:環境庁「自然公園の面積」
 
自然公園利用者数  全国9位  国立公園+国定公園+県立公園
出典:環境庁「自然公園等利用者数調2000」
地球環境保全
二酸化炭素排出量 (総排出量)全国3位 1,771万t-c(1990年度)


 
(1人当たり)全国9位  3.28t-c/人(1990年度)
出典:環境庁「地球温暖化防止に資する地域別の二酸化炭素排出量の把握手法調査研究報告書」
 
オゾン層保護対策全国ランク  全国1位  総評価45.0点(H10年度)
出典:「青森アップル会」のアンケート集計結果
 
条例によるフロン排出規制  全国初  平成7年7月「環境の保全と創造に関する条例」
 
住宅太陽光発電システム設置件数  全国3位  平成11年度までの住宅用太陽光発電システム設置数1,585件 出典:(財)新エネルギー財団補助実績